茅葺屋根の湯野上温泉駅
湯野上温泉駅は旧国鉄の会津線湯野上駅として、昭和7(1932)年12月に開業している。
その後経営がJR東日本から第三セクターの会津鉄道に移り、この折駅名も湯野上温泉駅と変えられた。
昭和62(1987)年7月のことだそうだ。
その後駅舎は、近くにある「大内宿」の観光最寄り駅であることから、茅葺の屋根の建物に建て替えられた。
茅葺屋根の建ち並ぶ町並みになぞらえて、「日本で唯一の茅葺屋根を有する駅」となり、東北の駅百選にも選ばれた。
ところがJR九州の久大本線・豊後中村駅が、平成22(2010)年に現駅舎を取り壊し再建される事になった。
そこは茅葺屋根の駅舎として再建したことで、日本唯一の称号は無くなってしまった。
湯野上温泉の最寄り駅であり、駅舎の横には平成12年10月に足湯「親子地蔵の湯」も併設されている。
日本唯一とも名乗れず、今では、駅名標には「江戸風情と湯けむりの里」と書かれている。
ホーム周辺には桜の古木も多く、四月ころの花見や、紅葉する秋にはこれ目当てのお客も多いと言う。
駅には相対したホームが千鳥に配置されていて、ここでは列車の交換が行われる。
そのため先着した列車は、対向の列車の到着を待つため、暫く停車する。
その間乗客はカメラ片手にホームを右往左往し、写真を撮るのに慌ただしくそんな賑わいを見せる駅でもある。
改札を抜けると構内は思ったよりも広く、左側に駅務室が有り売店を兼ねている。
右側が待合室になっていて、その一角に板敷の小さな間が拵えてあり、その中央には囲炉裏が切られている。
暖かな火が燃え盛っていて、立ち上る煙は萱の虫よけになると言う。
ここでは地元の名産品に交じり、簡単なコーヒーなどの飲み物も提供されている。
囲炉裏の有る上がり框に腰を下ろし、そっと手をかざしながらお茶をしたくなる、そんな雰囲気がある。
ホッと一息つきながら、昔話の一つでもしたくなる、懐かしさに浸りたくなる、そんな駅でもある。
湯野上温泉
阿賀野川の上流域、大川渓谷に沿った山々に囲まれた山間の地では、四季折々の渓谷美が楽しめる。
駅周辺と、そこから歩いて15分ほどの温泉街には、20軒近くのホテルや旅館や民宿などが点在している。
ここには歓楽な娯楽施設は何もないし、それどころか温泉街らしい土産物屋・食事処などもない。
従って、温泉客がそぞろと町歩きを楽しみ、賑わいを見せる通りなども無い。
周辺には有名な大内宿が有るとはいえ、そのほかに大した見どころが有るわけでも無い。
「いで湯の里、湯野上温泉」は、大自然に囲まれた山里の素朴で懐かしい匂いのする温泉郷である。
この地を流れる大川渓谷の岩間から吹き上げる温泉が知られるようになったのは、古く奈良時代のことだ。
歴史のある湯野上温泉には、こんな猿湯伝説が残されている。
「戦いに敗れ傷を負ったボス猿が、或いは猟師に鉄砲で撃たれた手負いの猿が、この湯に浸かり傷をいやした」。
「ほのぼの通り」には、小さくて可愛いい足湯もあるが、うっかりしていると見過ごしてしまいそうだ。
大川ラインに架かる吊り橋・江川橋からは、錦秋に染まる山と奇岩を縫って流れる絶景を望むことも出来る。
そんな河原では今でも、少し掘れば温泉が出ると言う。
5つある源泉の温度は62度、多くの旅館が渓谷を見下ろす場所に浴場を構え、今でも混浴が多いらしい。
泉質はアルカリ性単純泉で、神経痛、筋肉痛などに効能があると言う、無味無色のサラサラの湯だ。
「この辺りは何も変わらないのに、あの頃は原発の風評被害で一時客足がばったりと途絶えた」
こう話す今晩の宿の主人だが、「ここに来てやっと回復してきた」とにこやかに語り、喜びを隠さない。
この日泊まった小さな温泉民宿は、風評とは全く無縁で、全ての部屋が遠来のお客で埋まっていた。
芦ノ牧温泉 ネコ駅長
芦ノ牧温泉駅は、国鉄時代は会津線の上三寄駅として昭和2年に開業した駅である。
芦ノ牧温泉への観光客増を狙い、会津鉄道の発足と同時にこのように改称された。
沿線では決して大きな駅ではないが、到着すると観光客らしい客が珍しく10人ほど降りていった。
近頃では、温泉に訪れる客はマイカーと大型の観光バスが主流らしく、鉄道で訪ねる客は少ないと聞いた。
駅舎は木造で、内部は観光駅らしく、お土産品が並べられ切符売り場と観光案内所らしきものが並び合っている。
狭い駅舎内には、お土産を物色する観光客らしき姿が何人も見られ、思いの外賑わっている。
部屋の片隅には待合の長椅子も置かれていて、そこには若い女性のグループが腰を下ろし休んでいる。
この駅の賑わいのわけは、温泉への客ではなく、どうやら駅長にあるらしい。
かつてこの駅には「ばす」と言うネコがいて、駅長として7年間君臨したがその後引退し永眠した。
長年の功績を称え、社葬が行われ、「初代ご長寿あっぱれ名誉駅長」の称号が送られた。
今ではそれを引き継いだ「らぶ」が、昨年二代目駅長に就任している。
朝9時から夕方4時までの間が勤務時間らしく、駅構内の巡回などの業務に付いていると言う。
訪れたこの日も「らぶ」が駅務室で業務に付いていたが、撮影は禁止とのことだ。
その代わり沢山のブロマイドやグツッの販売が行われていて、どうやら客はこれが目当てのようだ。
牛乳屋食堂
芦ノ牧温泉駅を出て、駅前の道を少し行くと「牛乳屋食堂」と言う、一風変わった名の食堂がある。
何の変哲もなさそうな町の食堂の様だが、創業は古く大正末期頃のことらしい。
初代夫婦がこの地でヤギやウシの乳を販売したのが始まりで、それで牛乳屋なのだそうだ。
その後中国人からラーメンつくりを教わり「会津生ラーメン」として販売するようになった。
更に別の中国人から、直伝のギョーザ作りを教わり、屋号はそのままで、営業を続けてきたという。
その味は、代々嫁から嫁に引き継がれ、今は三代目を中心に四代目と共に切り盛りしているらしい。
この日この店を訪れたのは、丁度最後の客が出てきたところで、三時を少し過ぎていた。
店先には昼の営業が終わり、夕方まで閉店するとの張り紙がされている。
折角来たのにと残念がっていると、店向かいの牛乳屋売店の大将が声を掛けて来た。
その後どこかに携帯電話をかけているらしいが、話の内容からすると、どうやら店の女将と話しているようだ。
『昼が終わると残ったスープは全部捨てる。これから三代目が2時間ぐらいかけて夕方の仕込みをする。
うまくできれば夕方五時過ぎには店を開ける』のだと教えてくれた。
芦ノ牧 ドライブ温泉
「牛乳屋食堂」が、夜の営業の仕込み中との事で、それなら先に温泉に行くと言うと、大将が教えてくれる。
『この時間からだと、旅館の立ち寄り湯は出来ないよ。どこも受け付けは三時頃で終わる』
『ここに行ってきな、いい湯だよ。コンビニの前で降りると、その向かい側が温泉だ』
と別の場所を勧め、教えてくれる。
その先の国道に出て右折、百メートルほど離れたバス停「上三寄」でバスに乗る。
温泉へは鉄道駅からだと少し距離が有り、旅館の送迎を頼むか、タクシーを呼ぶか、バスを待つことになる。
その温泉行のバスは一日に数本しかないが、丁度うまい具合に、もう少し待てば温泉行きのバスが来る。
10分ほどで目の前にコンビニがある「芦ノ牧橋」と言う停留所に停車した。
不安も有って乗ると早々運転手に、コンビニ前のバス停で降りる旨伝えておいたら、「ここですよ」と教えてくれた。
丁度この辺りが温泉街の入り口で、芦ノ牧橋を越えた対岸には、大型のホテルや旅館が建ち並んでいる。
芦ノ牧温泉は会津若松市の南部に位置する温泉で、渓谷美と昔から豊富な湯量を誇る天然温泉が自慢のところだ。
阿賀野川を見下ろす高台に十数軒の旅館やホテルが営業をしていて、殆どのところで立ち寄り湯が楽しめるらしい。
大将に教えられた温泉は、道路の向こう側、広い駐車場を構えたドライブインに併設されている。
寂れたと言うか、廃れたと言うか、何だか冴えない外観に訝りながら店番の女性に入浴料を払い中に入る。
粗末なロッカーの置かれた脱衣所で服を脱ぐと、ガラス扉で仕切られた先に浴室が有るが、さほど広くはない。
右側に洗い場が有り、正面に四五人が入れるほどのタイル張りの浴槽が二つ設けられている。
源泉かけ流しのお湯が注ぎ込む左側がやや熱め、右側がそれより低くなっている。
屋外には露天があり、浴槽にはそこを溢れた湯が満たされているようだが、この時期露天は温過ぎて入れない。
カルシウム・ナトリウム硫酸・塩化物泉の無色透明の湯である。
入ると柔らかく肌に当たりるのを感じるが、出ると僅かにすべすべ感が残る。
この源泉は昭和40年代、コンビニの有る隣の敷地に国民宿舎が出来、それ用に掘られたものだそうだ。
その後宿舎は廃業したが、その後も地主としてそれを引き継いで使っていると言う。
旅館やホテルの浴室と比べれば、豪華さや清潔感には雲泥の差は有るが、かけ流しの湯は柔らかく心地いい。
いかにも歴史ある源泉温泉らしく、風情が有ってのんびり入るには丁度いいし、何よりも料金が安いのが良い。
湯上りのソフトクリームも殊の外おいしくて、穴場を探し当てたようで、嬉しくなった。
ソースカツ丼
入浴を終えバスで上三寄に戻り、再び「牛乳屋食堂」を訪ねてみる。
通りは既に闇の中で、周りの暗い町並みの中で、明かりが灯る店だけが浮かび上がるように輝いて見える。
横の駐車場には何台かの車が見られ、既に開店を待つ客が何人か、店を取り巻くように待っている。
ようやく5時半頃店が開くと、どこからか人が集まってきて、たちまち満席になってしまった。
この店の評判は何と言っても「ソースカツ丼」である。
全国丼連盟主催の丼グランプリ・カツ丼部門で、二年連続グランプリ金賞を受賞している。
サクサクに揚げたロースかつを、少し甘めの濃厚なソースにどっぷりと漬け、そのまま刻みキャベツの上に乗せる。
シンプルな姿ではあるが、口に含むとこの相性も抜群で、評判に違わない美味しさである。
又ラーメンも美味しく、いま東北地方の高速道路SAでは「クルミみそラーメン」がブレイク中だと言う。
ラーメンは何も言わなければ普通の太さの麺が出て来る。
件の牛乳屋売店の大将は、是非『会津の極太手打ち麺を食べて帰って』と言っていた。
メニユーは単品もあるが、多くの客が丼とラーメンをセットにした定食を頼んでいる。
これらはどちらかを半丼にすることも出来、中には店の原点である牛乳の付くものもあり、多様な味が楽しめる。
大将の勧め通り迷わず「ソースカツの半丼と極太麺のクルミミソ」を注文した。
出てきた麺は丁度名古屋名物の「きしめん」に似た太さがあり、モチモチとした食感は最高である。
濃厚な中にもさっぱり感のある味は・・・と言えば、まずは並んでも食べてほしいと言える逸品であった。
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