旅の思い出 |
始まりは南武線から
賑わいを見せる川崎駅の5番・6番線から始まる南武線は、東京の立川まで39.6キロを28駅で結んでいる。 大都市の近郊路線らしく駅間の距離が比較的短く、よく地方路線で見かける“名所案内”の標示板を、ホームで見かけることはあまりない。
川崎を出ると暫くは、立派な高層マンションや工場群など、市街地の車窓風景が続くが、尻手辺りではビルの谷間から富士山が姿を現す。 多摩川とほぼ並ぶように線路は延びているが、車窓からはその流れを見ることは殆どない。
川崎からは40分ほどで、多摩川を渡り中央自動車道を過ぎると、武蔵野線の起点駅府中本町に到着する。 駅の東には東京競馬場が位置し、コンコースにはそこに向かう臨時の出口も設けられている。
武蔵野台地を行く武蔵野線
5分ほどの接続で武蔵野線に乗る。 武蔵野線は、千葉県の西船橋までの71.8キロ、多くの列車は、そこから京葉線に入り東京まで運行されている。
この路線、首都圏近くを走っているのに、意外なほどにトンネルや切り通しが多い。 府中本町を出るといきなりトンネルに入り、その先西国分寺から新秋津にかけても長いトンネルが有る。 それを抜けると、住宅地の中にわずかに残った雑木林なども見える。 武蔵野と言うから、小高い台地と、雑木林が続くのかと思っていたので、イメージ通りでは無いが、それでも所々にそれらしい風景が展開する。
荒川を越えると西浦和、その先の南浦和や、最近開業した越谷レイクタウン駅では、さすがに乗客の乗り降りが激しい。車窓風景は、殆ど山らしい山の姿を目にすることも無く、関東平野の大きさ、広さを実感する。 船橋法典を過ぎると右に大きな中山競馬場が見え、その先に海が見えて来ると終点の西船橋だ。
ここからは、千葉方面に向かう南舟橋と、東京方面に向かう市川塩浜に向け分岐線が出ていて、この間と、南舟橋と市川塩浜を結ぶ間は、所謂「三角線」で、これらは全て京葉線に属している。
リゾートの玄関駅
ディズニーリゾートの玄関口、相変わらず人の乗り降りの多い舞浜駅で降りてみる。
左手には、リゾートのチケットセンター、シルク・ドゥ・ソレイユシアターやイクスピアリと言う複合施設がある。複合施設には、ショッピングセンターやレストラン、映画館などが軒を並べ、色々なイベント、パフォーマンスなどに多くの人々が集まっている。 その先にアンバサダーホテルが建ち、更にその向こうには、ディズニーシーもオープンしていて、歩いて行くと20分ほどかかるそうだ。
目の前をディズニーリゾートラインと称するモノレールが走っている。 舞浜の駅前に有るのが“ゲートウェイス・テーション”、そこから反時計回りに“東京ディズニーランド・ステーション”“ベイサイド・ステーション”“東京ディズニーシー・ステーション”と続き、一周が約5キロ、13分ほどだ。路線は単線で、ミッキーマウスの形をした窓を持つ、ブルー、パープル、イエローなど5色の跨座式の車両が、単方向運転されている。
駅の右手方向にはランドの正面ゲートに向かう、ゲートウェイデッキが延びている。 その途中には、大きなスーツケースと帽子箱のような形をしたボン・ヴォヤージュと言う、国内最大級の売り場を誇る二階建てのディズニーショップが建っている。 ボン・ヴォヤージュとは、フランス語で「良い旅を!」と言う意味らしい。
一階には、買った荷物を送る等のためのサービスカウンターが有る。 ゲートウェイデッキからそのまま入れるのが二階で、フロアにはお馴染のディズ二―グッズが溢れている。
房総路の沿線風景
蘇我から安房鴨川までの119.4キロが内房線、そこから途中大網を経て千葉まで延びる93.3キロが外房線。 途中の大網からは13.8キロの東金線が、総武本線の成東まで延びていて、その成東を挟んで千葉、銚子に向かうのが総武本線で有る。
成東は、駅周辺が県下でも有数のイチゴの産地で有ると同時に、アララギ派の歌人伊藤左千夫が少年時代を過ごした町としても知られていて、駅のホームには左千夫の文学碑が建っている。
蘇我を出ると、大きな敷地の工場や火力発電所、製鉄所などの立地する京葉工業地帯の工場群が見える。 木更津、君津で多くの乗客が下りると、車内も沿線もローカル然とした風景に変わり、上総湊辺りからは、海の向こうに微かに霞む小さな富士の姿を見ることもできる。
浜金谷は、江戸時代には「房州石」の切り出しで栄えた町、昭和47年に良質な温泉が出て、何軒かの旅館や民宿が東京湾の海の幸を売り物に人気を集めている。町の背後には、329メートルの鋸山が控えている。 西岸の切り立った岩肌が鋸の歯のように見えることから名がついた山からは、良質な石が切り出されてきた。 今では、山頂に向かって、ロープウェーで4分ほどの空中散歩を楽しむ事が出来る。
ここから対岸の三浦半島の久里浜までは、東京湾に浮かび上がる富士山や、鋸山を眺めながら、フェリーで渡ると40分程の近さだ。
月の沙漠の故郷
外房線の御宿は、房総半島の東に位置する小さな町。 駅から歩いて10分ほどの御宿海岸は、約2キロにわたって白い砂浜が広がっている
美人画で知られた竹久夢二などと同年代に活躍した抒情画家、「加藤まさお」の童謡「月の沙漠」の舞台と成ったところで、海岸には砂漠を行く二頭のラクダ、「月の沙漠記念像」が有り、その背後に建つ「月の沙漠記念館」では「加藤まさお」の作品や資料を紹介展示している。
近くには天然温泉「御宿の湯 クアハウス」が有り、地下800メートルから、ナトリュウム一炭酸水素低張泉の黒湯が湧き出ていて、日帰り入浴を楽しむことが出来る。 ここには寝湯、打たせ湯、気泡湯などが有り、多彩なスタイルの入浴プログラムが用意されている。
「証城寺の狸囃子」に送られて
木更津から房総半島の深部に入り込むように延びる久留理線は、終点の上総亀山まで32.2キロ。 沿線途中に有る雨城の城下町、久留理に因んでいる。 この路線は、千葉県内のJR線では唯一の非電化路線であり、キハ38形等のディーゼルカーが運行している。 列車は市内に有る證誠寺に伝わる伝説、童謡「証城寺の狸囃子」のメロディー発車音に送られて出発する。
本線と別れ大きく東に進路を変えると、富士山が左手後方に位置を変える。 車窓は、低い丘陵の広がる田園地帯に、ベットタウン化した住宅街が広がっているが、どこか懐かしいのどかなローカル線と言った感じである。
東横田を過ぎ、進路を南に取るといわゆる房総丘陵と言われる地勢で、ここら辺りから、徐々に標高をあげて行く。東京や横浜から、アクアラインを使えば1時間足らず来る事が出来るアクセスの良さからか、観光客も多いのであろう、鉄道に併走する道路脇には“イチゴ狩り”の看板が多く眼に留まる。
ロングシートに座る学生も、列車が駅に停まるたびに下りて行くので、久留理に着く頃には、車内の乗客は僅かに成ってしまった。 この路線は全線が単線、途中の横田と久留理が交換可能な駅と成っていて、列車が行き違い停車し、昔ながらの珍しい「タブレットの受け渡し」が行われる。
亀山湖は釣りのメッカ
久留理を過ぎ沿線に山が近づき、小櫃川の谷も深く成ると上総亀山、木更津からは1時間10分ほどだ。 標高がおよそ100メートル、房総半島のほぼ中央に位置する駅は、いかにもローカル線の終着駅らしく、山峡の鄙びた風情はなかなかのものである。
この駅に近い亀山湖は、千葉県最大のダム湖で、総面積139万平方メートルを誇る。 気候は比較的温暖で、周囲にさほど高い山が有るわけではないが、緑の多い、自然豊かなところである。 湖はダム湖らしく地形が複雑に入り組んでいるので、その周回道路には橋が多く、それが自然に溶け込み独特な景観を醸している。
山々を赤や黄色に染め上げる紅葉の秋が良いらしく、染まった山々と、それを映した湖面を、ボートに乗って眺めるのが特にお勧めとか。また冬は、湖面から立ち上る朝靄が幻想的な世界を創り出すそうだ。
この湖は、ヘラブナやブラックバス釣りなどの名所としても知られている。 大勢の釣り人が湖面に船を浮かべ、或いは、移動させながら釣り糸を垂れているが、思いのほか湖面は静かである。不思議に思い聞いてみると「釣り船の船外機は、全てエレキモーター駆動」だからと言う答えが返ってきた。
湖畔に有るホテルには温泉が湧いていて、日帰り入浴が出来る。 ヨウ素や臭素を含んだチョコレート色した食塩泉で、少し滑り気の有るのが特徴である。 地下にマグマ溜まりの無い千葉県は温泉の少ない県らしいが、ここは温度こそ低いが正真正銘の天然温泉である。
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