噴火湾に沿って
森から再び函館本線の普通列車に乗り、倶知安を目指す。
本線は渡島半島の東側を行き、ここからは右手に噴火湾である、内浦湾を眺めながら北に向かうことになる。
桂川を過ぎ、次の石谷のホームには、名所案内板があり、湯川温泉が紹介されている。
さすが北海道スケールがでかい、最寄り駅とは言え、「徒歩1時間30分 バスの便あり」と書かれている。
この駅の一日の平均乗降人数は、10名以下らしいので、列車で温泉を訪れる客は殆どいないと言うことになる。
森を出てここまで、昔ながらの駅舎が残り、待合所だけの駅もあるが、全ての駅は無人駅であった。
ここ山越も無人駅ながら、関所を模した立派な待合所がホームに作られている。
ここは江戸幕府が作った「日本最北端の関所」が有る場所として知られていて、建物はそれに因んでいる。
武器の持ち込みや、通行人の往来手形改め等で、倭人が蝦夷地へ入る事を厳しく取り締まっていたらしい。
蝦夷地開拓の機運が高まった江戸時代末期には、関所は廃止され、自由な往来が出来るようになったという。
途中の石谷や落部には、古い木造の駅舎が残されていた。
国縫にも昔ながらの赤いトタン屋根の木造駅舎が残されているが、次の中ノ沢は車掌車を改造した物だ。
列車はこれまで渡島半島と、室蘭のチキウ岬に囲まれた、ほぼ円形の噴火湾を眺めながら進んできた。
常に湾越しに対岸の山影が見えていたが、そこまでは30q程だそうだ。
これを長大橋や海底トンネルでショートカットを、と言う話しも有るらしいが、実現の見込みは無いらしい。
かにめしとあめせん 長万部
長万部は2面の島式ホームに4線を持ち、広大なヤードには何本もの留置線のある大きな駅である。
函館本線と室蘭本線の分岐駅で、普通列車の多くはここが区切りの駅となっている。
ここから本線を行く普通列車の本数は、極めて僅かとなり、本線とは言え実質はローカル線扱である。
札幌方面に向かう優等列車は、ここからは函館本線は経ず、室蘭本線に乗り入れる。
長万部にも「かにめし」と言う名物駅弁が有る。
ここではかつて、「茹で毛蟹」をホームで販売していた。
その後「かにめし」を全国に先駆けて販売したとされていて、元祖と言われている。
町内には10店近いお店が営業していて、駅弁やレストランでの食事に味を競っている。
乗り換え待ちの僅かな時間を利用して町中に出て、カニめしを買い込んで駅に戻ってきた。
駅にはまだキオスクが健在で、ここではこの町の名物である「アメセン」とお茶を買い込んだ。
「アメセン」は、手焼きしたせんべいに、少し硬くした水飴を挟み込んだものだ。
せんべいには4つに割れるような切れ目が入れられているので、簡単に小さく割る事が出来る。
口に含むと、せんべいの香ばしさに水飴の甘さが絡み、なんだか昔馴染んだ駄菓子のような懐かしい味がする。
早速先程買い求めた「かなやのかにめし」を味わってみる。
この駅弁は、元々はちらし寿司をベースに改良されたものらしく、味付けなどは各社で微妙な違いが有ると言う。
特に特徴的なのが、最後に乗せられる蟹の爪の形を表していると言うシイタケだ。
その配置は、各社で全く違っていて、独自色を出していると言うから面白い。
長万部からキハ150系1両のワンマン運転の車両に乗り込んだのは20名ほどだ。
一見観光風の乗客が多いのは、沿線にニセコや小樽と言った名うての観光地を要しているかららしい。
これから次の目的地、小樽に向かう。
「山線」と言う名のローカル線
北海道を貫く函館本線の特急も、ここ長万部からは海辺に沿った起伏の少ない室蘭本線や千歳線に乗り入れる。
従ってここから先の本線は、花形特急の走らないローカル線に様変わりし、小樽までの間は単線となる。
しかし、沿線は「山線」と言われるだけあって、北海道の雄大さを実感する車窓風景の期待を高めてくれる。
長万部を出た本線は、渡島半島の内陸部に向けて進路を変え、少しずつ登り始める。
次の、二股の駅舎はこれまで見てきた車掌車ではなく、貨物車を改造したもので、これは珍しい存在で有る。
標高もかなり上がり、車窓は山深い様相で、熱郛を出ると、20‰の登りとなる。
第二白井川トンネル(595m)でサミットを越えると、目名に到着する。
雪が深いところなのか、勾配のきつい屋根を持つ山小屋風の駅舎で、町民サロンを兼ねているという。
蘭越の駅前にシックで落ち着いて佇む建物は、調べてみると「蘭越花一合図書館」のようだ。
次の昆布も何だか、モダンな感じのする駅で、直ぐ裏には、どこかの国の宮殿の様な立派な建物も建っている。
これは駅と直結した建物で、日帰り温泉「幽泉閣」だそうで、周辺は昆布温泉郷と呼ばれているらしい。
本線は尻別川の蛇行に沿うように、また何度も橋梁で越えながら、やがてニセコに到着する。
沿線では、比較的大きな駅で、相対式2面3線を持つ地上駅で、珍しく駅員(委託)も配置されている。
ニセコアンヌプリ(1,309m)の山岳に囲まれた丘陵地帯で、温泉、スキー場、牧場などが点在している。
周辺は、国定公園に指定され、国際的にも知名度の高い観光地で、駅はその拠点となっている。
次の比羅夫は無人駅ながら、駅そのものが民宿「駅の宿 ひらふ」となっている。
夏にはホームでバーベキューも楽しめるらしく、駅舎の前にはストーブ用なのか、沢山の薪が積み上げられている。
端には、山小屋風に丸太で組み上げた浴室が有り、「ゆ」と書かれた暖簾も掛かっている。
蘭越を過ぎたあたりから、車窓には昆布川が近付いてきた。
昆布、ニセコの観光駅を行く辺りから、この線の絶景区間を迎える・・・筈であるが、生憎この日は曇り空だ。
雨雲が低く垂れ込めて、今にも泣きだしそうな様子で、降り出さないだけまだまし、と言う状況だ。
そのため右手の羊蹄山、左手のニセコアンヌプリは、その全容を現してくれそうにない。
日本一の名水の町
長万部からはおよそ1時間半、倶知安に到着した。
これまでの沿線では比較的大きな地上駅で、ここには駅員も配置されている。
嘗てここから室蘭本線の伊達紋別に向けて、胆振線(83.0q)が出ていたが、昭和61(1986)年廃止された。
倶知安は、羊蹄山やニセコ連峰に抱かれた静かな山間の町だ。
かつて先人たちが、厳しい風雪を克服した開拓の歴史を持つ町でもある。
平均降雪日数137.4日、平均積雪量は1.93mと言う多雪の風土を生かし、今「スキーの町」として売り出している。
また、倶知安には、日本一の誉れも高い名水がある。
四季を通して、水温が変わらないと言われている羊蹄山の伏流水で、そのまろやかさは名水の名に恥じない。
駅を出るとすぐ左手の「駅前公園」に飲水場が有る。
ここでは目の前の蝦夷富士(羊蹄山)を眺めながら名水を味わうことが出来る。
銀山は、「男はつらいよ 望郷編」のロケに使われた駅で、集落を東に望む丘に有る。
然別、仁木、余市辺りからは小樽への通勤・通学圏なのか、駐輪された夥しい自転車を目にすることがある。
余市を過ぎると本線は東向きに進路を変え、所々で日本海の余市湾を見下ろしながら進む。
蘭島、塩谷を過ぎるとやがて終点の小樽に到着だ。
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