おされさんを背に
宿泊した「ホテル コスモ オサム」が遍路道を大きく外れていたため、次の札所まではかなり残している。
国道を1qほど戻り、再び遍路道に出て、住宅地の中の道を歩く。
この辺りの上空には、黒い雲が低く垂れ込めて、今にも雨が降りそうだが、幸いまだ雨粒は落ちていない。
途中で広域農道を外れ、JR伊予富田駅辺りで県道156号に入りJR予讃線を超え右折する。
暫くJR予讃線と並行し頓田川を越え、1キロほど歩いて左折すると札所は直ぐ目の前だ。
どうやら今のところは雨の心配もなく、青く澄んだ高い空が戻ってきた。
願い事は一つ・国分寺
第59番札所・国分寺は、伊予の国府があった場所に建っている。
門前に一対の石灯篭が建ち、その先に二十段ほどの石段がある。
それを上ると正面に本堂、右に大師堂、左手に本坊と納経所が有る。
境内に他の参拝客はいない。時々こうして境内に誰もいない札所に行き会うことがある。
皆一様に同じコースを廻っているのだから、一人や二人くらいは遍路がいても良さそうに思うが、時々不思議と誰にも会わない札所に出会すのはなぜなのだろう。
その静まり返った境内に「修行大師の像」が建っている。
石造りの等身大の大師像で、前に差し出したその右手だけが薄黒く汚れているのは参拝客が握手をするからだ。
「握手してお願いしてください。願い事は一つにしてください。あれもこれもはいけません。お大師様は忙しいですから 五十九番 国分寺」と書かれている。
石鎚の山麓に向けて、ひたすら歩く
国分寺から次の札所までは33q、歩行時間の目安は凡そ10時間、石鎚の山麓を目指す。
今日の宿までもまだ、20q余りあり、ひたすら歩くだけの道行きである。
県道に戻り3qほど歩いたところで国道196号に合流、暫くして今治小松自動車道の「今治湯の浦IC」を超える。
この辺り左手に「湯の浦温泉」の看板が見える。
ここは、昭和52年に開設された比較的新しい温泉地のようだ。
瀬戸内海国立公園に位置し、気候は温暖、風光も明媚で、四国では最初に「国民保養温泉地」に指定されている。
暫く進むと右手に道の駅「今治湯の浦温泉」が見えて来たので、休憩がてら立ち寄ってみる。
仙遊寺で合った青年が、「温泉に寄ってきた」と言いながら、大きな荷を担いで入れ違いに出発するところで有った。
遍路道からは数百メートル入るだけとは言え、早入浴も済ませ、ここでも充分に休んだという。
若いだけに、さすが歩きも速く健脚で、活動的な行動はとても真似できそうにはない。
道の駅には、仙遊寺のあの石段上りの折出会った、福岡からだと言う夫婦連れの遍路も先着していた。
「明日の横峰は、バスが有るので、バスを利用する」「色々検討したが、今日は丹原に泊まる」などと言っていた。
道の駅の売店の店員に聞けば、この先食事処は無いと言う。
昼食用のお握りを併設のレストランで作って貰い、先発した夫婦遍路の後を追うように道の駅を出る。
「孫兵衛作」と書く珍しい地名があった。
瀬戸内バスのバス停にも、道路標識にも同様に書かれている。
何て読むのだろうか・・と調べてみると、そのものずばり「マゴベエサク」と読むらしい。
長丁場の歩きには、こんな一寸した珍名でも、一時気を紛らわすことができる。
国道を1.5qほど歩いて右に外れ、JR予讃線の踏切を横切りその先で高速道路を潜る。
ここら辺りで先行した夫婦遍路を追い抜くと、県道は曲がりくねった上り坂に変わり、西条市へと入っていく。
その県道のピークに世田薬師が有り、ここからは眼下に旧東予市の町並みが見通せる。
本来の遍路道はここから左に坂を下り旧東予市の町中を抜けるが、標識を見落としそのまま直進してしまった。
後から写真を見返せば、下り坂の途中の民家の手前に、左に下る細い道が映っている。
真新しい県道は小さなアップダウンを幾つも繰り返すので、これが結構しんどい。
何よりも街路樹もないアスファルト道は、遮るものも無いので日差しが半端なく厳しくて暑い。
車道も歩道も真新しく広々としているが、車も人も見かけることがない。
大明神川に架かる橋を渡る。
ここを右に折れ川を4qほど遡ると「伊予三湯」の一つと言われる本谷温泉がある。
調べてみると「松山の道後温泉」「今治の鈍川温泉」と並ぶ、歴史的由緒のある温泉らしい。
その先あたりで再び遍路道に合流、やれやれと安堵しながらそのまま進んで丹原の町を目指す。
途中墓地の施設をお借りして昼食をとり、暫く休憩の後、漸くに丹原の町に入って来た。
久しぶりに見る活気のありそうな町並みで、小学校の先で右折、商店街のような賑やかな通りを抜けていく。
あの夫婦連れはこの町にある「栄屋旅館」で泊まると言っていた。
町中を抜けると豊かな田園地帯が広がり、開放感のある道が続く。
その前方に立ち塞がる石鎚山(1982m)の山並みが、歩くほどに次第に大きく近くなってくる。
石鎚山は西日本の最高峰で、古くから山岳信仰の道場として開けた山だ。
札所はその中腹、750m余りのところに有り、明日はいよいよあの山の「遍路ころがし」が待っている。
中山川に架かる石鎚橋を渡る。
坂を下りその先の国道11号線を横切り直進すれば次の札所の有る石鎚山の懐に入り込むが、それは明日の行程だ。
今日はここを右折し、遍路道からは1qほど外れた所に今晩の宿を取っている。
湯の里・小町温泉
丹原からは5qほど歩いた先の「リンリンパーク 湯の里小町温泉・しこくや」に宿を取った。
ここはレストラン、果物市場、お土産売り場などを併設した、温泉自慢の宿である。
物産館ではミカンやカキなどの地元で採れた農産物や、土地の名菓、海産物のお土産などが売られている。
その建物を通り抜けると裏には広い庭園があり、池には沢山の錦鯉が飼われている。
部屋は和洋両室を備えていて、シングルで一泊二食付が8,025円だ。
遍路には少し贅沢な温泉宿であるが、遍路割引で泊まるので以外にお値打ちな宿でもある。
ドライブインに、温泉宿泊施設が併設された様な宿だ。
松山自動車道のインターも近いので、団体や、ビジネス、遍路の利用も多いらしい。
1階フロント奥には、美人の湯として知られる、日帰り入浴も楽しめる温泉施設が有る。
温泉は低張性アルカリ性冷鉱泉で、広々とした大浴場では、露天風呂・サウナ・ジエットバスが癒やしてくれる。
楽しみな夕食のお膳には、ワタリガニやサザエ、刺身の他に、てんぷら、焼き松茸、土瓶蒸しなどが並ぶ。
宿泊料金の割には、満足できる宿であった。
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