九重“夢”大吊り橋
雨が落ちそうで、なかなか落ちてこない。
重く鈍よりとした鉛色の曇が低く垂れ込め、昼前だと言うのに辺りが夕方のように薄暗い陰鬱な日である。
山々は重苦しい天候とは裏腹に、木々が紅葉をはじめ、緑の中に赤や黄の素晴らしいグラデーションを見せている。
大分自動車道を九重ICで降り、県道40号線を30分ほど南下すると、山深い地に突然広大な駐車場があった。
車を降り、しばらく進みその先を見れば、曇り空に霞むように高さ43mと言う主塔が見える。
周りを山々に囲まれた標高777mの地に、威容を誇って聳える「九重“夢”大吊り橋」である。
平成18年10月に完成し、その名は公募で決められたと言う。
このつり橋は、深くV字形に切れ込んだ渓谷に架かっている。
長さが390m、高さは173m、巾1.5mで、人道専用の吊り橋としては日本一の高さを誇っている。
しかし、長さでは平成27年12月に開通した400mの「三島大吊橋」に抜かれ、第二位となってしまった。
橋は有料でチケットを購入することになるが、それには春夏秋冬四種類の写真が使われている。
橋の上からは日本の滝百選にも選ばれた「震動の滝」の雄滝や雌滝を望むことが出来る。
歩道には二か所ほど足元にグレーチングをはめ込んだところがあるので、恐る恐るその隙間から覗いてみる。
底を流れるのは「九酔渓」の絶景で、白く糸を引くような鳴子川の流れが、眼下に透けて見える。
橋の上からは、天気が良ければ、遙かに九重連山の壮大な景観も見られると言う。
そんな景観に見ほれていると、いつの間にか谷から白いものが湧き上がり、瞬く間に辺が覆い隠されてしまった。
飯田高原を経て途中から県道11号線を抜ける。
沿道は、寒の地獄温泉、長者原温泉等、鄙びた温泉の宝庫で、立て看板が魅惑的に誘ってくる。
立寄りたいところではあるが、夜までに目的地に付かなければならない。
山並みハイウエイを、ただひたすらに南下する。
肥後の一宮 阿蘇神社
県道11号線で阿蘇市内に入り、宮地に有る阿蘇神社に立ち寄って見る。
そこは阿蘇の国造りの主など十二神を祀る、肥後の一宮として、古代から重要な位置を占めてきた。
また、全国におよそ500社有る「阿蘇神社」の総本社だ。
市役所や官庁などが隣接する、町の中心部に神域を構え、2300年余りの歴史を誇る古社でもある。
ここは、見事で大きな山門を構える神社として知られている。
欅材を用いて造られた楼門で、豪壮にして優美な外観を持ち、細部にわたり繊細な彫刻が施されている。
鹿島神宮(茨城県)、筥崎宮(福島県)と共に日本三大楼門の一つと言われている。
高さは70尺(およそ21m)も有るそうで、最上部の屋根は、元々は杮葺きであった。
大正年間には檜皮葺に、昭和に入ると銅板葺に変えられている。
二層楼山門式と言われる建築様式で、全国的に見ても珍しいものだそうだ。
楼門の両側に四脚門形式脇門である、神幸門と還御門が控え、左右対称の景観を見せている。
境内に入ると入母屋造りの一の神殿を中心に、二の神殿、三の神殿が荘厳に建ち並んでいる。
神殿と楼門、脇門は天保から嘉永年間にかけて、細川藩が十数年に及んで、巨額の費用を費やして再建したものだ。
それらの建造物は平成19年6月に国の重要文化財の指定を受けている。
水基の町
阿蘇神社の門前には、どこか懐かしい雰囲気の良い町並みが残されている。
阿蘇を吹き抜ける風を受け、濃い緑を感じながら、小鳥たちのさえずりを聞き、通りをゆっくりと歩く。
すると、あちこちから、水のこぼれる涼やかな心地よい音が聞こえてくる。
ここ阿蘇神社門前の一宮商店街は、水が出る基(水基)、水基巡りが楽しめる町としても知られている。
ここは古くから湧き水に恵まれた処で(阿蘇の伏流水)、飲料水や生活用水として利用してきた歴史が有る。
美味芳醇な湧き水は、神様の泉として珍重され、不老長寿の水として崇められてきた。
そんな水を、道行く人にも飲んでもらおうと造られたのが、水基である。
各店の店先に、様々な水基を置く取り組みは、今から20年ほど前から始まったそうだ。
様々な形をした水基は十数基もあり、それぞれに名前が付けられ、由来が記されている。
草花で彩られ、木や石組みで造られた水基には、早や水草が張り付いて、歴史有る風格を醸し出している。
これらの水は何れも自由に利用ができ、その味わいも微妙に違うらしい。
通りには、飲食店や土産物屋なども多く、水基と相まって、これが魅力で多くの旅人を引き付けている。
熊本名物 馬ロッケ いきなりだんご かかし(?)
「馬(バ)ロッケ」とは、創業が昭和30年と言う老舗肉屋が作る馬肉の入ったコロッケである。
「とり宮」では注文を聞いてから揚げてくれるので、アツアツで食べるのが特に美味い。
馬肉は多少の癖があり、冷めるとその匂いが気になるらしいので、揚げたてのカリカリを頬張るのが良い。
少しのにんにくがくさみを和らげ、ほくほくのじゃがいもは甘みも有り、何とも言えない贅沢な美味しさである。
また商店街にある古民家レストラン「はなびし」は、阿蘇のあか牛が食べられる店として知られている。
あか牛丼やあか牛カツカレーが知られているが、「田舎いなり」もまたここの名物である。
兎に角でかい、昔ながらの懐かしいふるさとの味がする稲荷すしで、テイクアウトも出来る。
JRの宮地駅に立寄り、そこ後に国道265号から国道325号に入り、高森峠をトンネルで抜ける。
奥阿蘇と言われる地域に入り、途中奥阿蘇物産館に立ち寄ってみた。
ここにも有り、立寄る店々には必ず並んでいる、熊本名物に「いきなりだんご」と言うもが有る。
「いきなりだんご」とは、輪切りにしたサツマイモと小豆餡を餅生地で包み、蒸した郷土菓子である。
突然の来客でも、時間を必要とせず手軽に家庭で作れると言うのが、名前の由来らしい。
最近では、栗やクルミ入り、紫イモ餡、小豆も粒あん、こしあん、白あんなど様々なバリエーションがあるらしい。
幾つか食べてみたが、昔ながらのさつまいもと小豆餡のシンプルなものが一番美味いように思う。
その先の国道脇の稲刈りの終わった田圃の中に大勢の人が出て、何かイベントをやっている様子が目に入って来た。
何だろうと、脇道に車を寄せて見ると、何と人ではなくそれは作り物の人形、「案山子」である。
ざっと数えてみると三十体ほどが、表情も豊かに田圃の中に立っている。
後日調べてみるとそれは奥阿蘇・草部集落のかかし祭りであった。
毎年稲刈りが終わった10月初めころから約一か月間にわたり行っていると言う。
思わぬところでの「いきなりだんご」と「かかし」の出会が、長のドライブ旅の疲れを癒してくれた。
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