高千穂神社 夜神楽の舞、四番
町の中心地に鎮座する高千穂神社は、今から約1800年前に創設されたと伝えられる、高千穂八十八社の総社である。
大鳥居を潜り石段を上がると境内にご神木の夫婦杉が聳えている。
ここでは神楽の始まりとされる、笹ふり神楽の奉納が毎年旧暦の12月に行われている。
そんなシーズン以外でもこの地に伝わる神楽を楽しめるよう観光客向けにしたものが、「高千穂夜神楽」である。
ここ高千穂神社の境内にある神楽殿では、毎夜8時から1時間、33番の神楽の中から代表的な4番が公開されている。
「出来るだけ前に詰めて座って下さい」
係員にこう促され、入った神楽殿は思った以上に広い畳敷きの空間である。
「そんなに客が集まるの?」と、内心では訝りながら中に入り、舞台の前に席を占める。
正面に舞台が設えてあって、正面には神棚のようなものがあり、天岩戸を表しているようだ。
その四方に「内注連」(うちぢめ 紙で出来た注連縄のようなもの)が巡らされている。
更に内側の天井は青く塗られ、日月が描かれ、やはり紙で作られた「雲」と呼ばれる天蓋が吊り下げられている。
右手が囃子方の席で、一抱えも有りそうな大きな太鼓や子太鼓が置かれている。
定刻になると禰宜の格好をした男性が登壇し口上が始まり、続いて神事が執り行われる。
それが終わると、舞台横に控えた大太鼓がドンと力強く打たれ、それを合図に笛や子太鼓の演奏が始まった。
最初の一番が「手力雄(たぢからお)の舞」で、タヂカラオが登場する。
天照大神が身を隠したので、世界は真っ暗闇になってしまい、どうしたものかと神々が集う。
手力雄は大神を探し周辺を動き回り、ようやくにして天岩戸に隠れた事に気づくまでを演じる。
続く舞が「鈿女(ウズメ)の舞」だ。
天照大神の所在が知れたので、岩屋より誘い出そうとアメノウズメノミコトがその前で舞う。
桶の上に上がり衣もかなぐり捨てて面白おかしく、今で言うストリップのようなものだったらしい。
八百万の神々の喝采を受けた舞いも、ここでは神聖なものとして、一人舞でそのさまを演じて見せる。
三番が「戸取(トトリ)の舞」で再びタヂカラオが登場する。
岩屋戸の近くで身をかがめ様子を窺い、天照大神が外の笑いに誘われて岩戸を少し開けたその瞬間だ。
素早く、力強く、天の岩戸を取り除き、天照大神を迎え出すさまを勇壮に舞う。
命は天上界では力の強い男の荒神とされ、ここでは赤い鬼の形相をしたお面でそれを印象付けている。
決して派手な舞台装置や演出が有るわけでは無いが、ここまでの40分ほどがあっという間に済んでしまった。
太鼓の音は、力強くは有るが単調に響き、舞も単純な所作で素朴そのものである。
しかし舞いから迸るエネルギーは、見るものを知らず知らずの内にすっかり神楽舞の中に引きずり込んでしまう。
最後が「御神躰の舞」だ。
冒頭、「この舞は演じるほうも結構恥ずかしいですよ。だからおかしいところは思いっきり笑って下さい。
そうでないとやってる方は切なくて・・・やってられない・・・」などと面白可笑しく口上が有る。
この舞では、イザナギ・イザナミの男女二神が、にこやかな表情の紅白のお面を被って登場する。
酒を造って仲良く飲み、酔いの勢いか、見つめ合い更には抱擁し合い、夫婦円満を演じる国生みを象徴する舞である。
コミカルな動きに、期待通り場内は大爆笑の渦である。
ひとしきり滑稽に舞いを披露すると、最後に二神は、満員の見物席に転がり込んだ。
あろう事か、あちらこちらでかなり際どい演技で観客を巻き込み、またまた大爆笑と客席大混乱の内に舞を終える。
気が付けば神楽殿は満員で立ち見が出るほど込み合っている。
中には外国観光客の団体なども随分と多いようで、今や神楽の人気も国際的になった感がする。
ここ高千穂町内の宿泊施設では、宿泊客の神楽殿への送迎を行っているらしい。
神社前の駐車場には、ボディに宿泊施設の名を大書きした、大型小型のバスや乗用車が何台も停められていた。
高千穂地方に伝承されている神楽は、毎年11月中旬から翌年の2月上旬にかけて奉納される神聖な神事である。
この地では伝統民族芸能であり、それは国の重要無形民俗文化財にも指定されている。
凡そ20の集落では、里ごとに氏神様を民家や公民館(神楽宿)に迎え、祭壇に鎮座させる「神迎え」の神事を行う。
引き続いて二日一晩を費やし33番の神楽舞いを奉納すると言い、観光客でもその里で見ることが出来るらしい。
神楽は里毎に多少の違いはあるが、ルーツは鈿女命が舞によって天照大神を岩戸から誘い出した事による。
高千穂の里人は年に一度、太古の神々との出会いを楽しみ、神楽を舞い、夜を徹して遊ぶのである。
と同時に、秋の実りに感謝し、翌年の豊饒、日々の安寧を祈願する事は、どの集落でも共通の事のようだ。
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