沿線は温泉の宝庫、吾妻線

 

高崎から乗車した電車は、渋川を経由し吾妻線に入っていく。

この線の起点は渋川駅だが、ここを始発・終着とする列車は設定されていない、全列車が高崎や新前橋と結ばれている。

 

渋川駅は、1面1線の単式ホームと1面2線の島式ホームを持つ駅で、上越線の途中駅でもある。

沿線やその近辺には、温泉が多く、その為かこの駅も「伊香保温泉・榛名湖口」と言う副駅名が付けられている。

ここは石段街の風情が人気の伊香保温泉の玄関駅で、駅前からは温泉行きのバスが頻発し、所要時間は25分ほどだ。

 

伊香保温泉

伊香保温泉

伊香保温泉


 

伊香保温泉

伊香保温泉

伊香保温泉

 

群馬県の渋川と嬬恋村の間を18駅で結ぶ55.6qの路線が吾妻線である。

地勢的には赤城山を背後にして出発すると、今度は左の榛名山(1449m)の麓を進み、続いて左に浅間山(2524m)、右に本白根山(2171m)等の山塊を望みながら・・・、となるのだが、これは地図上の話で、多くは谷沿いの狭い地に敷設された所やトンネルを行くので、雄大な山並みを車窓からふんだんにというわけにはいかないが、それでも線路に沿った吾妻川は、吾妻峡となったその流れを時折間近に見せてくれる。

 

吾妻線

吾妻線

吾妻線


 

吾妻線

吾妻線

吾妻線

 

吾妻線

吾妻線

吾妻線


 

渋川で上越線と分かれ、吾妻線に入る。

やがて車窓の右手に路線名の由来ともなっている吾妻川が寄り添ってくるが、まだこの辺りでは町並が続き見通すことは出来ない。

それでも金島駅の先で上越新幹線の高架を潜る辺りまで来ると、山や川や田畑等の豊かな自然が車窓を楽しませてくれる。

祖母島駅を出て、吾妻川を橋梁で越え、その左岸に出ると川がより近くなり、やがて渋川からは20分ほどで、美人の湯で知られる「小野上温泉」駅に到着する。

 

小野上温泉

小野上温泉

小野上温泉

 

 「何だぁ! これは?」

中之条駅の改札横に、支柱に渡したネットに、見慣れないものが栽培されていて、説明によると「ツノメロン 別名=キワノ ツノニガウリ」と書かれている。キュウリやメロンと同じウリ科キュウリ属の仲間で「角苦瓜」と書くアフリカ原産の果実で、食用の他、特徴的な外見から鑑賞用にも栽培されているそうだ。

この駅では、地元から提供された渋柿を、駅員が皮を剥いて吊す「つるし柿」が飾られることもあるようだ。

 

 ここは1面1線の単式ホームと1面2線の島式ホームを持つ地上駅で、この路線では珍しい有人駅でもある。

四万温泉や沢渡温泉への玄関駅でもあり、温泉の多い路線らしく、「四万・沢渡温泉口」と言う副駅名が付けられている。

 

四万温泉

四万温泉

四万温泉


 

四万温泉

四万温泉

四万温泉

 

四万温泉

四万温泉

四万温泉


 

四万川沿いに広がる四万温泉は、この駅前からバスで40分ほどの距離だ。

温泉地には、一般が利用できる共同浴場や露天風呂、日帰り施設等も多く、国民保養温泉として第一号の指定を受けている。

新湯地区にある元禄年間創業の積善館は、県指定の文化財の宿で、映画のモデルにも成った宿だ。

大正・昭和の懐かしさが薫る「元禄の湯」は、独特の雰囲気で、温泉ファンの人気も高い。

 

吾妻線は中之条駅を出て、群馬原町駅に停車すると、その先では車窓から人家が途絶え、次第に山間の様相を呈してくる。

やがて岩島駅を出て、大きく左にカーブしながら第二吾妻川橋梁を渡ると4,582mの八ッ場トンネルに入る。

この辺りは、吾妻渓谷と呼ばれる景観が続くが、残念ながら車窓から楽しむことが出来ない。

 

川原湯温泉駅

川原湯温泉駅

川原湯温泉駅


 

川原湯温泉駅

川原湯温泉駅

川原湯温泉駅

 

川原湯温泉駅

川原湯温泉駅

川原湯温泉駅


 

八ッ場ダムの完成により旧線が水没地にある事から、岩島と長野原草津口間、10.4qが付け替えられることに成り、新たに掘られたトンネルの一つである。この工事ではもう2本のトンネルと、橋梁5橋、高架橋1橋のほか、新たな駅が作られている。

連続するトンネルの中には、日本一短い7.2mの樽沢トンネルも有ったらしいが、気がつかないうちに通り過ぎてしまう。

 

トンネルを抜けると、旧駅からは1.5q離れ、70m程の高台に設けられた島式1面2線の「川原湯温泉駅」に到着する。

ダム工事によりダム湖に沈むため、新たなボーリングで源泉を掘り当て、その周辺に新温泉街を目指し、動きを始めたのが川原湯温泉でここはその玄関駅である。

駅の東500mの所に共同浴場が移転オープンしたのを皮切りに、商店や旅館の移転が行われ、新しい温泉街が出来始めている。

 

長野原草津口駅

長野原草津口駅

長野原草津口駅

 

長野原草津口駅

長野原草津口駅

長野原草津口駅

 

長野原草津口駅

長野原草津口駅

長野原草津口駅

 

 川原湯温泉駅を出ると直ぐに入るのが、川原湯トンネル(1,870m)、続いて横壁トンネル(1,737m)を抜けると、長野原草津口駅に到着だ。島式の1面2線を有する地上駅である。

文字通り天下の三名泉として知られる、国際観光地・草津温泉の玄関駅で、首都圏と直結する上野始発着の特急「草津」号がこの駅まで乗り入れている。

 

 駅前は直ぐにバスターミナルになっていて乗り換えの利便性が良さそうだ。

そのバスはどうやら鉄道と接続しているらしく、鉄道で訪れる客は駅前に滞留する間も無く、直ぐバスに乗り込み目的地に流れてしまうせいか、観光地の玄関駅にしては閑散としている。

 

草津温泉

草津温泉

草津温泉


 

草津温泉

草津温泉

草津温泉


 

そもそも、
この路線の始まりは、長野原町で採れる鉄鉱石を搬送するため、太平洋戦争の末期である昭和201945)年に、沿線にある日本鋼管が専用線を敷設したが当初は貨物営業のみであった。

旅客の営業は渋川と中之条の間で最初に行われ、その後も順次伸ばされ、1年後には長野原まで行われている。

その後長野原から太子間が昭和27年に開通し、旅客営業も行われていたが、昭和46年にこの間は廃止された。

同年には長野原と大前間が開通して現在の路線になったが、一時は県境の山を越え、長野側の信越本線との接続計画があった。

 

 長野原草津口駅を出て、群馬大津、羽根尾、袋倉の各駅に停車を重ね、さらにこの辺りまで来ると、周辺には間近に山が迫り、吾妻川の流れもより狭くなる。

 

万座・鹿沢口駅

万座・鹿沢口駅

万座・鹿沢口駅

 

万座・鹿沢口駅

万座・鹿沢口駅

万座・鹿沢口駅


 

やがて吾妻線の車窓に、人家が戻り始めると実質的な終着駅と言ってもいい万座・鹿沢口駅に到着する。

この線の中では、数少ない有人駅の一つである。

吾妻線の列車の設定は、凡そ1時間に1本で、この迫の終点大前迄行く列車は朝夕しかなく、殆どがこの駅止まりである。

多くの列車がここで折り返し、一つ先の終点・大前まで行く列車は一日2.5往復しかない。

 

万座・鹿沢口駅

万座・鹿沢口駅

万座・鹿沢口駅


 

万座・鹿沢口駅

万座・鹿沢口駅

万座・鹿沢口駅

 

万座・鹿沢口駅

万座・鹿沢口駅

万座・鹿沢口駅

 

 万座も鹿沢も有名な温泉地である事から、駅名を決めるに当り、両温泉の間で対立が有り、その折衷案を取った為に、両駅の名が中黒(・)で結ばれている。

その万座温泉は軽井沢の奥座敷として知られ、活動中の火山も近くにある、標高1,800m地点にある温泉で、ここからバスで45分ほどの距離だ。又標高1,500mの高所にある鹿沢温泉までは、バスで40分ほどらしい。

 

万座温泉

万座温泉

万座温泉


 

万座温泉

万座温泉

万座温泉

 


 

 

 平成41992)年に地元の強い要望で開業した、吾妻線では最も新しい駅が「小野上温泉駅」である。

駅周辺の集落の人たちは、これまでは一つ手前の2キロほどの距離のある小野上駅を利用していた。

これで便利になったわけであるが、駅利用者が特別に多いというわけではない。

ここは幅2メートルほどの長い単式ホームが1面有るだけの無人駅だ。何の設備もない大層長いホームは、その幅と比べると何だかアンバランスの様に思うが、これは沿線を走る長編成の特急列車などの対応を考慮したものであろう。

 

小野上温泉

小野上温泉

小野上温泉

 

小野上温泉

小野上温泉

小野上温泉

 

木造平屋建ての駅舎は、指定管理者により管理されている。

その為、張り紙によると午前9時から午後5時までの営業となっていて、営業時間外は閉じられている。

従ってこの間の駅利用者は、駅舎を通り抜けることなく横に設けられたスロープによりホームに直接上がる構造になっている。

駅は地元の活性化センターを兼ねていて、待合室、特産物直売所等が有る。

その為か掃除も良く行き届いているようで、駅前も多くの植木や草花で、綺麗に飾られていて、とても気持ちの良い駅だ。

 

小野上温泉

小野上温泉

小野上温泉

 

小野上温泉

小野上温泉

小野上温泉

 

ここは文字通り小野上温泉の玄関駅で、駅前には、「美人の湯 ようこそ小野上温泉へ」の立て看板も見られる。

元々は古くから吾妻川河畔に湧く「塩川鉱泉」があり、傷に効く名湯として知られていたが、何時しか衰退してしまった。

昭和531978)年この地で、44.5度の自噴温泉が発見され、その2年後住民の憩いの場として、公設の日帰り温泉施設としては全国に先駆けて、小野上温泉センター「さちのゆ」が開業した。

その後規模の大きな温泉施設との要望も有り、新たに50.4度の源泉を掘り当て、温泉センターは元より周辺の旅館民宿に分湯して、そのとろみのある泉質、ナトリウム−塩化物温泉から「美人の湯」として売り出した。

 

湯野上温泉

湯野上温泉

湯野上温泉

 

湯野上温泉

湯野上温泉

湯野上温泉

 

湯野上温泉

湯野上温泉

湯野上温泉

 

湯野上温泉

湯野上温泉

湯野上温泉

 

平成に入り、「塩川温泉」から「小野上温泉」と名称変更をした。

温泉センターもリニューアルされ、自由な温泉リゾートとして周りには飲泉場や無料で利用できる足湯を設け、隣接して地元の農産物を直売するふれあい市場等が整備されている。

また宿泊にはそのすぐ近くに、渋川市の委託で営業する、駅からも近くてリーズナブルな公共の宿の、「SUNおのがみ」を始め、それ以外にも僅かながら旅館や民宿なども点在している。

 

小野上温泉

小野上温泉

小野上温泉


 

小野上温泉

小野上温泉

小野上温泉

 

小野上温泉

小野上温泉

小野上温泉


 

小野上温泉

小野上温泉

小野上温泉

 

 駅の新設は、どうやらこれらの施設への利便を考えてのものらしいが、残念ながら利用客はさほど多くはないと言う。

駅の裏は、線路沿いに国道353号線が通り抜けているが、さほど交通量が多いようには見えない。

駅を中心とした辺りには、多少の工場や住宅などの大小の建物があるものの、特別に大きな集落でもなさそうだ。

その周りは稲刈りを終えた田んぼが長閑に広がり、その向こうは緑濃い山肌が直ぐそこまで迫っている。

 

小野上温泉

小野上温泉

小野上温泉


 

小野上温泉

小野上温泉

小野上温泉

 

小野上温泉

小野上温泉

小野上温泉


 

小野上温泉

小野上温泉

小野上温泉

 

町を歩けば、吾妻川の清らかな流れが旅人を優しく迎え入れてくれる

そこには河川敷を利用し、広々と広がる運動施設を併設した「小野上温泉公園」もある。

周辺には、賑やかな歓楽な温泉街が有るわけでも無く、土産物屋が軒を連ねているわけでも無く、特別目を引く観光名所が有るわけでも無いが、どこまでも豊かな自然に包まれた地は、心静かに美人の湯を楽しむにはもってこいの憩いと癒やしの場所である。

 


 

 

『大前駅は無人駅。駅の周辺の自然環境も昔ながらのひなびた姿をそのまま残し、駅前にある浴場嬬恋温泉も鹿沢連峰のふもとに包まれて文字通り素朴な里であるが、大前からは、上信越国境方面への観光ルートが大きく開けている。』

(「ローカル線風土記 終着駅」毎日新聞社 昭和50年)

 

かつてこのように紹介された駅も、それから半世紀以上経た今では、駅前の温泉はすでに閉館している。

終着・大前駅は、単式1面1線の広いホームが有るだけの簡素な駅だ。

ホームの先を見ると100メートルほど架線も線路も延びているが、その先で迫り出した山に遮られ、線路は途切れている。

 

  

吾妻線終点・大前駅

  

吾妻線終点・大前駅

吾妻線終点・大前駅

 

  

吾妻線終点・大前駅

吾妻線終点・大前駅

吾妻線終点・大前駅

 

吾妻線終点・大前駅

吾妻線終点・大前駅

吾妻線終点・大前駅

 

この駅には、一日に5本の電車が出入りするだけで、その利用客は通学が中心らしく、日に数十名程と言う。

それでもこの駅が廃止にならないのは、一つ手前の万座・鹿沢口迄やってくる長編成電車の一時退避線として使うためだ。

そんな駅に駅舎は無く、ホームの中央辺りに、白いペンキの塗られた堅牢な待合室とトイレがあるだけだ。

 

駅前の未舗装の広場には、今となっては珍しい公衆電話ボックスが建ち、その脇に一台の自転車がポツンと置かれている。

周辺には嬬恋温泉郷と呼ばれる温泉地も点在しているが、それらは鉄道の利便が良い万座・鹿沢口駅を玄関としている。

更にここからは上信越国境方面に向かう手立ては何もなく、文字通りここは行き止まりの終着駅である。

 

吾妻線終点・大前駅

吾妻線終点・大前駅

吾妻線終点・大前駅

 

吾妻線終点・大前駅

吾妻線終点・大前駅

吾妻線終点・大前駅

 

 折り返し時間の間に、ホームで持参した駅弁を食べていると、研修中だと言う女性車掌と目が合った。話を聞くと、

「この駅まで来られるお客さんは殆どいません。たまに見かけるのは鉄道好きの方でしょうか。写真を撮ってすぐに折り返して行かれます」と言う。折り返しの便を逃すと何もないところで、何時間も待つことになり、この日も5名ほどの乗客は、思い思いに写真を撮ると、そのまま折り返していった。

 

終点の駅は、吾妻郡嬬恋村にある。

ヤマトタケルが東征中、足柄坂の神を蒜(ひる)で打ち殺し、平定した東国を望ながら、亡くした妻を想い「アヅマハヤ(わが妻よ)」と三度嘆いた神話から呼ばれるようになったのが、この「吾妻・東(あずま)」である。

そんな神話の地のだだっ広いホームの中程には、故事に因んだものなのか、駅名標と並んで「道中安全」を願う、仲良く寄り添う二体の道祖神が据えられていた。

 

 



 

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