旅の思い出 |
電車を乗り継いで
旅は御殿場線から始まる。
天下の険、箱根の山が伊豆半島に続く地形は、当時の技術では、避けて通るより仕方が無かった。 そのために、この山塊を北側に一回りするように、国府津までの60Km余りの路線が出来た。 それが今の御殿場線、かつては東京と京阪神を結ぶ日本の大動脈、東海道本線の一部だった路線だ。
それが熱海・函南間に山をくり抜いた全長8Kmの丹那トンネルが開通すると、これが本線となったことで、御殿場線はローカル線に成り下がり、再スタートする事に成ってしまう。
沼津を出た列車は、暫くは雄大な、日本一の富士山を実感しながら、ひたすら25パーミルの急坂を上り続け、30分ほどで御殿場に到着する。
冬の日差しが、思ったよりも暖かい、穏やかな日であった。 駅舎を出ると、町並みの向こう正面に、より一層大きく富士山が構え、ゆったりと裾野を広げている。 その裾野に向かって、緩やかな上り勾配の道路が延びているので、暫く富士山に向かって歩いてみる。
この路線、ローカル線とは言え、国府津行きの列車の車内は意外と乗客が多い。 中学・高校生位の女の子が、何人かの友を連れだっているので車内がかしましい。 また、家族連れも多そうだ。 さながら、チョッとした通勤時間帯程の混みようである。
そんな乗客の多くが、松田に到着すると、殆ど降りてしまった。 この町で何か、イベントでもあるのか。 それともここから、小田急に乗り換えて、新宿など都心に遊びに行くのであろうか。
国府津で東海道線に乗り換え茅ヶ崎へ、ここから相模線で橋本へ向かう。 八王子、高麗川で乗り継いで、高崎には2時半過ぎに到着した。 ここで遅い昼食を摂り、その後両毛線で小山に向かう。 車内の程良い暖房と、お腹が満たされた事もあり、赤木山を眺めているうちに、いつの間にか寝込んでしまった。
水戸線の沿線
冬の日没は早く、水戸線の起点駅小山で、友部に向かう列車を待つ間に、辺りはすっかり暗くなってしまった。 友部では、列車を乗り換え、今晩の宿を取っている水戸に向う
小山からは、通勤通学の乗客も多く、車内は結構込み合っている。 到着する駅での乗り降りも多い。
紬で有名な結城を過ぎると、20分ほどで下館に到着する。 ここからは、SLが走る真岡鐡道が茂木まで延び、途中には焼き物で有名な益子の町がある。 それにしても、真岡と書いて“もおか”とはなかなか読めない。 この他にも、この茂木と書いて“もてぎ”、益子と書いて“ましこ”なども読み辛い。 難読駅名の部類に入るのでは・・と思ったりもする。
暫く行くと笠間だ。 ここは、日本三大稲荷を名乗る笠間稲荷の門前町。 興味が有ったので調べて見ると、全国に日本三大稲荷を名乗る寺社は結構多い。 京都にある稲荷神社の総本社とされる伏見稲荷、愛知県の豊川稲荷(上右写真)は揺るぎの無いところらしいが、問題は残るあと一社。 佐賀県の祐徳稲荷、茨城県の笠間稲荷、岡山県の最上稲荷(上左写真)、岐阜県の千代保稲荷などが、それぞれに名乗って、競っているようだ。 全国的な知名度を上げるためには、どうしても欲しい看板なのかもしれない。
小山から1時間ほどで終着の友部に到着する。 ここから黄門さん縁の地、水戸までは、15分程だ。
光圀ゆかりの西山荘
水戸の駅前には、助さん格さんを従えた旅姿の黄門さまが、駅に向う人々を優しい眼差しで見つめ立っている。
ここからは、水郡線の列車に乗って常陸太田に向かう。 2両編制のワンマンカーキハ123は、水戸駅を出発すると、大きくカーブしながら水戸城址を抜け、その先で那珂川を渡り北に向かう。 車窓はどこにも有りそうな大都市の郊外、何の変哲も無い町並みと所々の田畑を見ながら進む。 それでも常陸津田を過ぎる頃、左手はるかに雪を頂いた山”も見えてくる。 20分ほどで上菅谷に到着する。 ここで本線から別れると、終着駅には黒い畑の土を見ながら15分ほどで到着する。
折角ここまで遣ってきたのだから、是非立ち寄って見たいところが有る。 しかし、今日はこのあと郡山に行き、そこから磐越東線で再び太平洋側のいわきを経て、仙台から石巻まで行く予定にしている。 残念ながら、ここでゆっくり見学する時間が無い。
せめて話だけでもと思い、駅中の観光案内所を訪ねると、開館準備中の掃除の手を休め、係の女性が対応してくれた。 「歩くと25分くらい。貸し自転車もありますよ」との事。 駅からは北へ3キロ程、バスも有るようだが、タクシーなら5分程の距離だ。 多くの木々に囲まれて、静かなところだが、春の新緑、秋の紅葉が美しく、このころが特に賑わうとか。 事情を説明すると「残念ですね。せめてパンフレットでも」と言って何種類も渡してくれた。 「いい所ですからもう一度是非ユックリお越し下さいね」との声に送られて、慌ただしく折り返しの列車に乗り込んだ。
15分ほどで分岐駅、上菅谷に到着する。 ここで10分ほど待つと郡山行きと接続する。 「本線」に乗り換え、頂いたパンフレットをみながら郡山に向う。
隠居した光圀公が、領民と親交を重ねながら、その晩年「大日本史」の編纂に心血を注がれ、73歳で亡くなるまで、過ごされたところである。 華美を嫌った光圀公の、往時の面影を垣間見ることが出来る施設であると言う。 焼失した建物の一部を、170年ほど前の文政年間に復元し、公開しているそうだ。 ここは、テレビの人気番組「水戸黄門」前シリーズのオープニングの背景で知られる「西山荘」だ。
水郡線
上菅谷から15分ほどで常陸大宮に到着する。 この駅の近くには農水省の珍しい施設「ガンマーフィールド」がある。 何の設備なのか、家に帰ってネットで調べてみた。 『半径100mほどの円形の圃場に農作物や材木を植え、中央にコバルト60を納め、そこから常時γ線を照射し、その影響を調べたり、その影響を利用する大規模な屋外研究をする施設』らしい。
日本三名瀑の一つ「袋田の滝」へのハイキング最寄り駅、袋田を過ぎると常陸大子。 水郡線の中では、比較的大きな駅である。 ここで後1両を切り離すため5分間停車し、乗務員が交代した。 ホームに降りてみると、少し冷え込んで来たようだ。 田畑に薄っすらと雪が積もっている。
ここからは、少しずつ上りにかかり、磐城淺川で水郡線の最高地点(306m)を迎える。 と言ってもそんなに大層な峠を越えている印象はない。 これを下ると母畑・石川温泉郷の玄関、磐城石川だ。 線路脇に温泉案内の立て看板があり“猫啼温泉”とある。 なんて読むのだろうと思い、前に座っている高校生に尋ねると「ねこなきおんせんです」と教えてくれた。 二軒の温泉宿がある小さな温泉地のようだ。
川辺沖辺りから乗客が増えてくる。 車内が賑やかになってきた。 つぎの泉郷からは福島空港が近いので、車窓からは、低く飛ぶ飛行機が見える。 やがて目の前に東北新幹線線の高架が見えてくる。 それを大きく曲がりながら潜り、東北本線に入ると安積永盛。 ここから終着の郡山には5分ほどで到着する。
ゆうゆうあぶくまライン
福島県の中通り郡山から、太平洋岸(浜通り)のいわきまでを結ぶ磐越東線は、その愛称を“ゆうゆうあぶくまライン”と言う。 阿武隈高地と呼ばれる地帯を、磐越自動車道とほぼ並ぶように走っている。
郡山を出て、二つ目の駅が三春。 この地は、梅と桜と桃の花がほぼ時を同じくして咲き始め、三つの春が同時にやってくる事から「三春」と呼ばれるようになったとか。 樹齢千年と言われる「三春のしだれ桜(滝桜)」が知られている。 春に成ると大勢の花見客で賑わい、臨時列車の運行も有ると言う駅も、今は線路わきには薄らと雪が積もり、ひっそりと静まりかえっていた。 この地に伝わる郷土玩具「三春駒」も、伝統工芸品として知られている。
「ふたつの宇宙にあえるまち」神俣までは、1時間足らずで到着する。 福島県内では最大級の反射式天体望遠鏡を有する「星の村天文台」と、日本の鍾乳洞では初めてと言われる、舞台用の調光照明でファンタジーな演出が見られる「あぶくま洞」が人気を呼んでいるらしい。
小野小町ゆかりの小野新町が時間的には、ほぼこの路線の中間点に成る。 小野小町のゆかりを売りにする町は、全国に幾つも有るようだ。 昨年旅行した秋田も出身地を名乗っていた。
ここを過ぎると夏井川渓谷を車窓に見ながら、およそ40分で、終着駅のいわきに到着する。
常磐線に乗って
いわきからは、常磐線で仙台に向かうが、ここから先は意外に便利が悪く成る。 普通列車は、凡そ1時間に一本。 直行する列車も無くは無いが、本数は極めて少ない。 その多くは、途中の原の町で乗り換えとなる。
いわきを出て、草野、四ツ倉と二つほど駅をやり過ごすと、車窓には太平洋が近づいてくる。 この辺りの海岸線には、広野火力発電所や、福島第一、福島第二原子力発電所が立地しているので、その煙突や、首都圏に電気を送る、夥しい送電線を車窓間近に見る事が出来る。 しかし、太平洋岸を走っている割には、余り海が見通せないのが、なんだか物足りなく残念だ。
原の町には1時間半足らずで到着する。 夏に開かれる、有名な「相馬野馬追い」の祭場地には、ここから無料のシャトルバスが運行されると言う。 行列や甲冑競馬、神旗争奪戦を見る有料の観覧席が用意され、一部の行事の撮影は、有料で許可が要るらしい。 ニュースでしか見た事が無いので、一度見てみたいと思うのだが、なかなか夢は叶いそうも無い。
ここでは、10分程度の待ち時間で仙台行きに接続しているので、この点は便利が良い。 仙台へは1時間半で到着する。
夕方6時過ぎ、駅前のイルミネーションが眩く煌めく仙台に着いた。 駅中の食堂で、名物「牛たん」の夕食を楽しみ、土産物屋さんで“伝統こけし”を眺めたりして過ごす。
仙台駅から500mほど離れたところに、平成12年に新しい駅が出来た。 「あおば通り」駅、ここが仙石線の起点駅となる。 仙石線は、日本三景の一つ、松島海岸の間近を走る、風光明美な路線である。
地下ホームで列車を待っていると、賑やかにラッピングされた電車が入ってきた。 「マンガッタンライナー」。 仙石線を走る、石ノ森章太郎のマンガキャラクターが描かれた列車だ。 この列車は、土日には、快速列車として石巻まで運行される。 これに乗って終点まで行くと、「乗車記念証明書」がプレゼントされるらしい。
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