白川郷
トンネルを抜けるとすぐに白川郷ICで、バスは大きくカーブしながらゆっくりと降りて行く。
「冬は雪が多いが、除雪されるので殆ど心配ない」とドライバーが言う。
国道156号線を5分ほど走り、萩町で庄川に架かる橋を渡り、小さなトンネルを抜ける。
やがて左右の木立の中に合掌造りの建物が見えてくる。ここまで下呂からは2時間余りの行程だ。
「下呂・白川郷散策きっぷ」で、下呂温泉から濃飛バス直行便に乗り、白川郷のせせらぎ公園駐車場に到着した。
「世界遺産の村・ひだ白川郷」は、岐阜県の北部、庄川の流れる山間の地にある。
白川村萩町地区は、大小百棟余りの合掌造りが残り、今も人々の営みの続く合掌造り集落の里として知られている。
その独特な景観が評価され、国の重要伝統的建造物群保存地区に選定され、ユネスコ世界遺産にも登録されている。
古き良き日本の原風景とも言われる郷は、人気の観光地でもある。
萩町・城山展望台
「ここからこのシャトルバスに乗ると良い。すぐに出るから」と、運転手が声を掛けてくれた。
到着したバス停で、展望台に向かうシャトルバスの乗り場を探し、ウロウロとしていた時だ。
白川郷を見下ろす萩町の城跡展望台には、20分毎に発車するシャトルバスが運行されていて、一人200円である。
バスは狭い山道を曲がりくねりながら10分ほどで登り切り、展望台に向かう駐車場に到着する。
そこから緩いスロープを暫く歩くと頂上で、そこには店を構えるお土産店を併設した飲食店が立っている。
その前が広々とした広場で、その先に展望台が有るが、この店が無料で開放している施設である。
ここからは合掌集落の全景が一望で、全体を俯瞰する絶景のビュウーポイントとして知られている。
目の前に広がる光景に、思わず息を飲み訪れた人々の間から「おおーっ」と、感嘆の声が一斉に上がる。
「これが雪景色だったら・・・」と、何時か見たポスターの絵柄が俄に思い浮かぶ。
この中世城跡の、台地の西北部が断崖絶壁になっていて視界が開け、合掌造り集落を見下ろすことが出来るのだ。
展望台は、傾斜地で足場の悪いのを物ともせず、多くの人々が頻りにカメラのシャッターを切り始めた。
急峻な山々が迫る僅かに開けた平地が、田畑であろうか薄緑色の絨毯のように輝いて見える。
集落の中心を真っ直ぐに貫く道路の両側には三々五々、あるいは寄り添うように合掌造りの建物が建っている。
独特の色合いをしたそれらは、ほぼ同じ方向を向いて佇んでいて、その姿はまるで箱庭を見るように美しい。
合掌造りの集落
この城跡展望台に上るルートは二つあり、歩きなら集落の東の外れから緩い傾斜の登山道を上る。
又、せせらぎ公園駐車場から出るバスなら9時〜15時の間は、各時間帯20分おきに3本有るので便利に利用できる。
マイカーはバスと同じルートで、一旦国道360号に出て人家の途絶えた辺りで狭い車道を上って行く。
バスに乗車した総合案内所まで戻ることも出来るが、折角なのでのんびりと歩いて戻る事にする。
下るほどに合掌造りの集落は、展望台とは異なった姿を見せ、ひと味違った楽しみがある。
山道とは言っても傾斜の緩やかな鋪装道で、10分ほども下れば集落の入り口に到着する。
集落に降りてすぐ右手に有るのが、国の重要文化財に指定されている和田家の建物だ。
江戸期に名主を務めた家柄で、焔硝取引で富を得た、この辺りでは最大規模を誇る合掌造りである。
今でも住居として使われているが、内部の一部は有料で公開されている。
更にその先の長瀬家合掌造りは、明治23(1890)年に建造されたものだという。
天然の檜や栃、欅、桂等の巨木柱材で組み上げた5階建の建物で、完成に3年を要したと言われている。
合掌造りとは、勾配の急な大屋根の形が、手を合わせた合掌の形に似ていることからこう呼ばれている。
屋根の両端が本を開いて立てたような形は、この地方特有の重い雪の積雪量を極力減らす目的がある。
この大屋根は、定期的な葺き替えが必要らしい。
建物は殆どが南北に面して建てられているが、これは風向きと日照を考慮しての事だそうだ。
屋根裏は小部屋になっていて、ここは主に養蚕の作業部屋として使われ、これが村の基幹産業となっていた。
妻部分が大きく解放されていることで、風通しと採光も良く、蚕の飼育に向いているのだそうだ。
神田家
凡10年の歳月を掛けて建造された神田家の建物も、公開されている。
建物の内部に入ると広い三和土の土間が有り、そこから古い時計などの飾られた板敷の座敷に上がる。
レトロな雰囲気の座敷の中央には、囲炉裏が切られていて赤い炎が揺らいでいる。
柱や梁の巨大な木組みは、どこも煤で黒く光っている。
中二階の屋根を支える梁は、「チョンナバリ」と呼ばれる曲梁で、これは自生している木の根元を削り出した物だ。
屋根に架かる力を分散させる「駒尻」や、「クサビ」等、釘を使わず荒縄で組み上げた構造物の力強さが感じられる。
歴史を感じる、堂々とした匠の技の確かな造りは、見事なもので見るものを圧倒する。
茅葺きの寺 明善寺
集落の外れに、真宗大谷派の寺院である明善寺が有る。
境内には、県の天然記念物に指定された“イチイ”の大木が聳え立っている。
茅葺の二層構造の山門を潜ると、茅葺合掌造りの本堂で、鐘楼も庫裏も全て茅葺きの合掌造りである。
庫裏は、郷土資料館として公開されている。
その本堂は欅材を駆使し、凡20年の歳月を要し建築されたもので、築270年と言われている。
又庫裏や鐘楼門はほぼ同年代の建立で築200年と言われ、何れも県の重要文化財に指定された建物だ。
綺麗な曲線を描く大屋根は、質感も有り、力強くて美しく、優美なのに見る者を圧倒的する。
どぶろく祭りの館
白川八幡神社の境内には、毎年10月14・15日に行われる祭を伝える「どぶろく祭りの館」が有る。
ここはその様子を人形や模型、資料等で紹介する展示施設である。
施設の見学が終われば、希望者に「どぶろく」(当日朝の日供祭に供えられた御神酒)が振舞われる。
切立(堤銚子)と言われる銚子に入れられた「どぶろく」を、巫女さんから盃に受け、それを頂く。
「どぶろく」は白濁していて、とろみが強くやや酸味があるものの、芳醇で口当たり良く思ったよりも飲みやすい。
「どぶろく」は、米・米麹・水だけを原料に発酵させ、濾過をしない日本の伝統的な酒である。
古来より豊穣を祈念する宗教行事の供物として使われ、今日でも全国各地の多くの神社で行われている。
お供えと言えども、酒税法上では「酒類」に当り、勝手に醸造すれば密造に当る。
各神社では、酒造免許を得て、一定の範囲から持ち出さない条件で製造をしていると言う。
であい橋
世界遺産の合掌集落から、庄川縁の「せせらぎ公園」に隣接したバス発着場に向けて吊り橋が架けられた。
平成5(1993)年に庄川に架けられた、長さ107メートル、コンクリート製の吊橋「であい橋」である。
ケーブルで吊られ、中央部分に向かって緩やかに下がる「U字」構造で、中央に向かうほど道の幅が狭くなっている。
この辺りの庄川は、川幅も広く水量豊かに流れていて、その上を渡る吊り橋は左程高くは無い。
橋からは、清らかな川の流れと、緑豊かな周囲の山々を望む、解放感溢れる景観を楽しむことが出来る。
バス発着所の有る駐車場の一角には、合掌造りの総合案内所・であいの館や食事処、土産屋が軒を連ねている。
その先には、使われなくなった家屋などを移築し保存展示する「野外博物館・合掌造り民家園」が有る。
又、20年間白川郷にアトリエを構えて活動した焔仁氏の作品を展示する、「焔仁美術館」もある。
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