難読駅 艫作
昨日と打って変わって、一面夏の空が青く広がり、所々に綿を千切ってまいたような白い雲が浮かんでいる。
左手は相変わらずの日本海で、これも穏やかな凪状態で、奇岩怪石の海岸線の景観が車窓を慰めてくれる。
五能線の売りは、「憧れのローカル線 感動の連続」で、正にこの海辺の絶景は、旅人を飽きさせない。
再びバスで十二湖駅に戻り、普通電車に乗って北上、艫作駅を目指す。
旧能代線の終着駅・陸奥岩崎を過ぎると、行く手の山並みを避けるようほぼ直角に曲がり進路を西に取る。
今は1面に1線の駅で、嘗ての相対式2面2線を有したその名残を駅構内に残している。
次の陸奥沢辺も1面1線の小さな駅で、この辺りの駅はどこも同じように簡素で寂れた佇まいを見せている。
ここから次の陸奥沢辺を経て、ウェスパ椿山までの間は、海辺の線路には珍しい登りの急勾配が待っている。
ウェスパ椿山は、平成13(2001)年に開業した、この路線では最も新しい駅である。
十二湖駅からおよそ15分、無人駅の艫作に到着しここで次の目的地に向け下車をする。
一日5往復しか無い、ローカル線の難読な駅名は、「へなし」と読む。
五能線が全線開通した同年に開業を始めた駅は工事中で、どこかの作業現場のような造りの小さな駅舎である。
海辺の露天風呂 不老ふ死温泉
駅前に目指す場所の案内板が有り、「電話すれば迎えに来る」と書かれている。
早速電話をすると、何分も待つ間もなくお迎えの大きなバスがやって来た。
バスは狭い集落を抜け、郵便局の角を曲がり、五能線の「燈台踏切」と言う踏切を越え、海辺に向かう。
踏切の名は、塔高24m(灯高68m)77万カンデラを誇る艫作埼燈台が、この地にある事に因んだものらしい。
バスは駅から5分ほど走って、お目当ての黄金崎に有る「不老ふ死温泉」に到着した。
ここは、テレビや雑誌などでも度々紹介される、海辺の開放的な露天風呂が人気の温泉宿泊施設である。
入口の券売機で600円の入浴券を購入し、フロントで証のバンドを手首に付けてもらう。
海辺の露天風呂には掛け湯の設備が無いので、一旦館内の内風呂で裸に成り、かけ湯を済ませることになる。
そのあと最低限の着衣を着けて、残りの衣服や靴、荷物などを持って館外100mほど先の露天風呂に向かう。
海岸には、コンクリート打ちの歩道が波打ち際のすぐ近くまで延びている。
その先に竹垣や簀の子で囲われた露天風呂が有り、向かって左手が混浴、その右隣が女性専用の風呂だ。
簡単な、気持ちばかりの囲いは有るものの、ほとんどオープンと言っていいほどの解放的な露天風呂である。
日本海の荒波が打ち寄せる、岸辺に掘られたひょうたん型の浴槽は、海と隣り合わせで本当に近い。
波が高い日には、海水が湯船に流れ込む事も有るらしく、海が荒れると完全に水没してしまうと言う。
海が穏やかでないと、この露天風呂は入る事が叶わないらしい。
浴槽にどっぷりと首まで浸かって海を見ると、目線の先に碧い海が広がり、岩に砕ける白波の方が高く見える。
浴槽から身を乗り出せば、すぐそこに海があり、手が海水に届くほどだ。
長湯でほてった身体を冷やしているのか、そのまま海に飛び込み海水浴をし、再び温泉に戻る客もいる。
ここでは誰もが大海原に向けては開放的で、海水浴と温泉浴を同時に、贅沢に楽しんでいるようだ。
フロントに「本日の露天風呂の温度は40度」と表示がしてあった。
ここの温泉は、赤茶けた錆色をしたにごり湯で、含鉄ナトリウム塩化物強塩泉で、源泉掛け流しである。
ここ一番のお勧めは、潮騒を聞きながら夕方この湯につかる事らしい。
空の色が徐々にあかね色に変化をする中、真っ赤な夕陽がジュッと音を立てるかのように海に沈む様だ。
この「日本の夕陽百景」にも選ばれた、幻想的な日没ショーは見応えが有るらしい。
しかし、日帰り入浴が利用できるのは午後4時までなので、そのショーを見るにはここに泊まるより他は無い。
大自然に広がるリゾート ウェスパ椿山
「ウェスパ椿山」は、不老ふ死温泉から無料の送迎バスで15分ほどの距離に位置する。
大自然を生かした広大な敷地に、ヨーロッパ風のメルヘンチックな建物が幾つも建つ人気のリゾート地だ。
平成7(1995)年に開業した施設で、その6年後にはJR五能線の待ち望んだ新駅が出来ている。
地元産に拘ったレストラン「カミリア」、津軽土産が揃う物産館「コロボックル」がある。
宿泊施設「コテージ」、ガラス細工の店「HOO」や、昆虫館等も有り、遊んで泊まれるリゾート施設だ。
立ち寄り入浴の出来る鍋石温泉も敷地内にある。
ここは、ドーム型開放式の屋根を持った構造で、天気がいい日にはドーム窓が開き、露天風呂に早変わりする。
背後の丘には、「風車の丘・白神展望台」がある。
開園から暫くして風車や、エレベータ付きの展望台が完成し、そこへのアクセスをスロープカーが担っている。
それは跨座式モノレールの様な乗物で、レールを跨いだ小さな車輌(客室)が運行していて丘の上まで人を運ぶ。
車両はJRの青池号を模したもので、リゾートしらかみ号と名付けられ、物産館脇から発車する。
スロープカーは最大斜度25度、高低差102メートル、561メートルを約8分かけてゆっくりと登って行く。
高度が上がるほどに視界が開け、広大なリゾート地の全景が一望のもとに見渡せる。
目の前に広がる大海原、日本海が太陽の光を受けてキラキラと眩しく輝いて見える。
終点は、「風車の丘・白神展望台」で、高さ27.2mの展望台が建っている。
また高さ50m、発電量・750Kw/hを誇る風力発電の風車も、ゴロンゴロンと風を切る音を響かせて回っている。
展望塔のエレベータで最上階に上がれば、360度に広がる、素晴らしい山と海の景観が出迎えてくれる。
目の前は、なにも遮るものも無い日本海の雄大なパノラマが広がっている。
山側に目を転じれば、白神山地の緑濃い山容が聳え、日本キャニオンの白い山肌も見える。
天気の良い日には、沖を行く長距離フェリーや、男鹿半島の寒風山や、遠く北海道までも望む事が出来ると言う。
「ウェスパ椿山」のエントランスが、JRのウェスパ椿山駅だ。
駅のプラットホームには、ステージが隣接して設けられ、その前に広い駐車場が広がっている。
この広場は演奏会などがあるときには、2,000人を収容(立席)する観覧席に変身すると言う。
新しく出来た観光駅らしく「リゾートしらかみ」の停車駅である。
折しも「くまげら号」が到着し、観光駅長がホームで、観光客相手に頻りに愛嬌を振りまいていた。
この観光列車に接続して、不老ふ死温泉への無料シャトルバスが運行されている。
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