海の国道350号
昨夜遅く新潟入りをし、ビジネスホテルに宿を取った翌日、駅前からバスでフェリーターミナルに向かう。
バスは市街地を抜け、信濃川の河口近くに設けられた佐渡汽船の乗り場まで、15分ほどで到着した。
車で渡る人が多いのか、改札を通る客は思ったよりも少なく、フェリー乗り場の広い構内が閑散としている。
この航路には、フェリーの半分以下の所要で運行する高速船・ジェットフォイルも運行されている。
ゆっくり船旅を楽しもうとする観光客ばかりではなく、こちらの利用者も結構多いらしい。
国道350号線は、陸と海からなる珍しい国道である。
起点は新潟市内の港近くの本町交差点で、そこから新潟港を経て佐渡島の両津港までが海上部である。
佐渡島に上陸すると島内を横断し、港のある小木までの間が島内でも唯一の国道となっている。
小木港から本土側の直江津港までが再びの海上部で、総延長195.5qの国道は、うち145.2qが海上部である。
おけさ丸の船旅
乗船手続きを終え、船に乗り込むと、丸く打ち抜かれた明るいエントランスルームが迎え入れてくれる。
早速四階に上がり、デッキから身を乗り出して埠頭の様子を眺めてみる。
作業員が忙しく誘導する中、何台もの車が船に飲み込まれるように積みこまれて行く。
作業を終えた係員が手を振って見送る中、定刻 「おけさ丸」は、沢山の海鳥を従えて出港した。
船は、新潟の街並みを遠望しながら信濃川を河口に向けて下る。
やがて10分程で川の両岸は遠ざかり、日本海に向け大きく広がる中央部を、外洋に向かって乗り出して行く。
ここから両津港までは2時間半程の予定だ。
何十年か前に初めて訪れた時は、確か4時間ほどを要したと記憶しているから、隔世の感がある。
「おけさ丸」は、佐渡汽船が保有するフェリーの中では最大級の船である。
三代目の船で、就航は平成5年から、総トン数5862t、最大旅客定員1705名、最大速力23.4ノットを誇る新鋭船だ。
1階2階は車両甲板、3階4階には1等・2等船室・ゲームルーム・ペットルーム・喫煙室・売店などがある。
5階には特等船室が6室有り、そして最上階の6階にはスイートルームが整備されている。
エントランスの案内所では、有料だが毛布の貸し出しも有る。
3階にはスナックがあり、ラーメンや丼物等の軽食が用意されている。
お勧めの「イカ芽カブ丼」は、アツアツのご飯にイカと芽カブを乗せただけのシンプル丼である。
磯の香りが、わさびと共にツンと鼻に抜け、思いの他美味しかったし、何よりも安いのがありがたい。
日本海は、波も穏やかな航海日和で、大型のフェリーは大して揺れることもなく順調に佐渡島に向かっている。
港を出てかなりの時間、疲れを知らぬ沢山の海鳥が船を追いかけていたが、流石に今は見られない。
どれぐらい経ったであろうか、後発の高速船が後方に見えたと思ったら、見る見る近づいてくる。
するとあっという間に、白波を蹴立て、海面を跳ねるように、飛ぶように、右舷から追い抜いて行った。
その船影が小さく成った僅か先には、薄らとながら、大きな島影が見え始め、佐渡島が近づいてきた。
フェリーターミナルでレンタカーを借り、右手に加茂湖を見ながら「トキの森公園」に向かう。
加茂湖は、周囲が17キロ有り、新潟県内では一番大きな湖で、湖面にカキ筏が浮かんでいるのが見える。
港から続く幹線道路を外れ、内陸に向かって15分ほど走って新穂地区にやって来た。
そこは島のほぼ中央部、国仲平野と呼ばれる穀倉地帯にあり、周りには田圃が広がる長閑なところだ。
トキを飼育するにはこうした環境が必要らしく、ここには「トキの森公園」が有る。
ここは、国際保護鳥「トキ」の保護・育成が目的で、平成六年四月に開園した施設である。
広い園内には、トキ保護センターやトキ資料館などが併設されており、資料館ではトキの生態を学ぶことが出来る。
また、保護センターで飼育中のトキは、観察廊下から窓越しに観察することが出来る。
「トキ」は、目の回りの頭の部分が綺麗に塗り分けたように赤いのが特徴だ。
足もオレンジ色に近い赤さで、体の羽毛は純白では無く、薄らとピンク掛っている。
もっぱら、動物性の生餌を捕獲して食べるのに適しているのか、嘴が長くて湾曲している。
体長も五・六十センチほど有り、堂々とした気品を備えている。
しかし飼育ゲージで見る「トキ」の中には、頭も足も黒っぽいのがいるが、これはまだ成鳥に成っていないからだ。
島を横断する島内唯一の国道350号線を走り、真野に有る「佐渡歴史伝説館」に立ち寄ってみる。
ここは、等身大のハイテクロボットをセットに配し、音や光の演出でその物語を再現して見せる施設である。
歴史上の佐渡に纏わる人物、順徳天皇、日蓮上人、世阿弥などが紹介されている。
先ず目に付くのが、エントランスゲートの屋根に乗る「瑞鳥」のオブジェである。
鋳金作家で佐渡出身の人間国宝・佐々木象堂の作品で、皇居・新宮殿の棟飾りに採用されたものだ。
館内では、第一景・慶子女王から始まる場面が、ロボットが演じるリアルな世界で再現されている。
佐渡に配流された順徳天皇や、日蓮上人・佐渡受難、雨乞いの舞を舞う世阿弥、安寿と厨子王伝説の場面などだ。
中でも面白いのは、第9景 語り部の場面である。
おじいちゃんの昔語りを、舞台セットに寄りかかって聞き入る少年がいる・・・。
と思い、よくよく見て見れば何とその少年も造り物で、動作が本物そっくりに造られている。
どのロボットも、精巧で、表現も豊かに造りこまれ、物語に引き込まれるようで、十分に楽しむ事が出来る。
館内には、お食事処「割烹夕鶴」や売店が設けられている。
見学コースは、そこを抜けるとお決まりのように、お土産品コーナーへと導かれて行く。
買い物の人々で賑わうお土産物の積まれたカウンターの脇で、水色のシャツを着た、思わぬ方を目にすることに成る。
北朝鮮による拉致被害者・曽我ひとみさんのご主人で、元アメリカ軍兵士のジェンキンスさんだ。
帰国後に曽我さんの故郷佐渡に永住され、職に就かれている事は、報道で見聞きし知っていた。
が、まさかこの施設の売店とは思いもよらなかった。
口数は少ないがお元気そうで、お土産を勧め、記念の写真にも快く応じてくれた。
アルコール共和国
車を走らせていたら、アルコール共和国の看板が目に留まり、立ち寄ってみる。
ここは新酒鑑評会での金賞受賞歴や、皇室献上歴のある尾畑酒造が公開する蔵元の無料見学施設で有る。
酒蔵特有の長い建物が見学コースとなっていて、途中には試飲スペースや販売コーナーが設けられている。
ここ真野地区は、島内でも屈指の水量と水質を誇る水に恵まれたところで、酒造りに適した地域らしい。
この地域特有の冷たい水が米作りには良いらしく、良質な酒米が採れると言う。
島内には酒蔵が七つ有るそうだが、その内の三つが集まる真野地区は「アルコール共和国」を宣言している。
各蔵元の一般公開を始め、見学や試飲に応じ、求めれば解説付きの見学も出来るようだ。
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