ホテル竜飛
この日は岬に建つ「ホテル竜飛」に宿を取った。
玄関を入ると、正面に津軽海峡を見据えたロビーが広々と広がっている。
一面ガラス張りで、向こうには青々と海が横たわっていて、北海道の山影が、微かにその輪郭だけを見せていた。
津軽半島最北端に佇むホテルだけに、見事なオーシャンビューだ。
平成2年、天皇・皇后両殿下は、全国豊かな海づくり大会の三沢会場にご臨席になられた。
その折、当地を訪れられ、青函トンネル記念館や竜飛海底駅などをご視察されたそうだ。
当ホテルでお食事、休憩をされ、その折使われた調度などが、ロビーの一画に展示されている。
又、ロビー中央には、「現在位置の真下を青函トンネルが通っております」の札が建てられている。
その足元には、トンネル工事で測量基準点として使用された、金属製の鋲が打ち込まれている。
「通過時刻に、上の照明が7色に変わります」と書かれていて、通過に合わせ天井のライトが灯る。
今は特急と貨物列車だけであるが、将来はこの下を、北海道新幹線が頻繁に行き来する筈だ。
龍飛崎周辺に民宿はあるがホテルや旅館は極めて少なく、トンネル工事中には、関係者の宿となっていたらしい。
その性か大きなホテルの割に、シングルルームが意外と多いのもこのホテルの特徴のようだ。
にもかかわらず、広々とした和室を、一人旅にも解放してくれるのが嬉しい。
男女別の大浴場は、ガラス越しの見晴らしが素晴らしく、広々とした浴槽には先客もなく貸切り状態である。
どっぷりと首までつかると、筋肉痛には良く効くと言う、カルシウム・ナトリウム泉が体に浸み込んでくる。
トンネル掘削工事中に見付かったという龍飛崎温泉ではあるが、残念ながら「加温・循環ろ過」されている。
脇には小さいながらも岩を組んだ露天風呂も有る。
が、ここでは天井に巣を作ったツバメが子育て中で、ピーピーとエサをねだった鳴き声がかしましい。
湯船に浸かっていると警戒をしてか、威嚇するようにこちらに向かって飛んできて、かすめるように返していく。
「記念館には、もう行かれましたか?」
風呂上り、ロビーで新聞を読みながら火照った体を冷ましていると、フロントの女性が声をかけてくれた。
聞けば、「青函トンネル記念館」がナイト営業をしていて、ホテルからは送迎のバスが出ると言う。
青函トンネル記念館の夜間特別に営業するナイト企画は、どうやらホテルとタイアップしたものらしい。
多客時や、団体客、要望が有ったときなど、不定期に開催されているようだ。
この企画に参加するため、急遽食事時間を予定より早めて貰う。
急な頼みではあったが快く受け入れて頂き、早々と18時過ぎには食事を終え、バスを待った。
「浴衣で良い」と聞かされていたが、「寒いかもしれませんよ」と言うので念のため上に丹前を羽織ってきた。
ナイト営業の企画 青函トンネル記念館
19時過ぎには出ると言う送迎バスに乗り込んだが、大型バスの中は誰もいない。
「一人だけ?」と聞くと、「団体さんは次の便だから、それまでに見学を済まされると良いですよ」とドライバー。
食事処を出る時、数十人の団体が、賑やかに食事を摂っていたから、この一団が来るのであろうか。
一人だけの専用車となったバスは、既に辺りに夕闇が迫るなか、直ぐに玄関前を出発した。
どこをどう行ったか定かではないが、5分程で坂の下の道の駅・みんまやに隣接するトンネル記念館前に到着した。
バスを降りた瞬間、吹き付ける風の洗礼を、いきなり受けることになった。
浴衣の裾がめくれ上がるほど吹く風は強烈で、半端じゃなく冷たく、思わず縮み上がるほど寒い。
昭和63年に開通した青函トンネルの完成を記念してオープンしたのがこの記念館だ。
その構想から着工、完成に至る道程を、立体モデルや説明パネル、更に音と映像を使って詳しく説明している。
館内には食事処やお土産屋さんも併設されている。
一通り館内を見て、映画を鑑賞しても40分ほど見ておけば大丈夫とのことであった。
この記念館の売りは、何と言ってもケーブルカーに乗って行く体験坑道のツアーである。
日本一短い私鉄と言われる「青函トンネル竜飛斜坑線」は、残念ながらナイトツアーではやっていない。
その距離が778m、最大勾配25‰を僅か8分で海面下140mまで運んでくれると言うが、残念である。
二階のシアターで、トンネル工事の歴史を紹介するビデオを見て、一階に降りる。
次の便の団体さんがどうやら到着したらしく、一人だけで寂しかった館内が一変し、賑やかな話声が響いていた。
見学を終え、外に出ると辺りはすっかり夜の帳に包まれ、漆黒に静まり返った海峡が横たわっていた。
相変わらず風は強く冷たくて吹き抜けていて、大地を揺するように風が唸っている。
町の明かりもなく、黒い塊となって佇むこの大地の下には、長大なトンネルがくり抜かれている。
こうして風に吹かれて立っていると、足元から特急の通過する轟音が聞こえてきそうな気がする。
龍飛崎の先端
部屋からも津軽海峡が一望で、その向こうに横たわる北海道の微かな影も認められる。
眼下に見えるのは、竜飛崎の先端の帯島で、玄武岩で出来ているらしい。
嘗ては陸から50m程離れ、海に孤立していたが、今は堤防(防波堤)で繋がっている。
その前に広がるのが旧三厩村の小さな集落と竜飛魚港である。
公共交通の便が決して良いとは言えない地である。
その為、途中JRの蟹田駅を経由して、青森駅前までホテルの送迎車が予約制で、一便運行されている。
町内循環バスとJRを乗り継いでいたら、半日は潰れてしまうので、ここは蟹田まで送迎を利用させて貰う。
北海道新幹線が開通すれば、竜飛へのアクセスはか格段に向上し、奥津軽駅がその玄関駅になる予定だ。
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