やぶっちゃランド
関西本線は伊賀上野を過ぎると盆地に広がる町並みが消え、丘陵地帯に入り少し山が深くなる。
すると車窓には淀川の支流、木津川が左手から寄り添って来る。
連なる山々は左程高くはなく、厳しさもない穏やかな山並みの中に、ゴルフ場等が散見できる。
次の島ケ原辺りでは、流れが大小の岩を食み急流となる「鯛ケ淵渓谷」の景勝も見ることが出来る。
大きく蛇行する木津川の、その渓谷の川岸には「やぶっちゃランド」と呼ばれる施設がある。
オートキャンプ場や水遊場、テニスコート、グランドゴルフ、パターゴルフなどを備えたレジャーランドだ。
その一角には、「島ヶ原温泉・やぶっちゃの湯」もある。
この施設の最寄り駅は島ヶ原だ。
関西線の起点亀山からは41.9q地点にある、相対式の2面2線を有する地上駅である。
駅の開業は古く、関西本線の前身の関西鉄道が開通した明治30年に時を同じくして設けられている。
瓦葺屋根を持つ駅舎は、平屋建ての民家を思わす構造で、内部の駅名標識等は懐かしい国鉄時代のものである。
駅を出ると右手に「まちかど博物館観光案内所」があり、地域の観光案内や食事処等の情報を提供している。
そんな駅前には、列車の到着に合わせ、「島ヶ原温泉・やぶっちゃの湯」に向かう無料送迎バスが待っている。
「島ヶ原温泉・やぶっちゃの湯」は、「やぶっちゃランド」にある複合温泉施設である。
旧島ヶ原村が建設し、今日では、伊賀市の公社が運営をしている。
ちなみに「やぶっちゃ」とは、土地の方言で「みんな」と言う意味だそうだ。
島ヶ原温泉
「島ヶ原温泉・やぶっちゃの湯」は、「やぶっちゃランド」にある複合温泉施設である。
やぶっちゃの湯のある「温泉棟」をはじめ、食事処を備えた「賄い棟」がその中心的な建物だ。
歩行用温水プール、ジャグジー、トレーニングジムなどを備えた「健康づくり棟・まめの館」も併設されている。
又、地元で採れた新鮮野菜や手作り品などを販売する「農産物加工棟」などもある。
その周辺にはオートキャンプ場や水遊び場、テニスコート、グランドゴルフ、パターゴルフ場などが備えられている。
ここのメインは温泉で、等張性のあるナトリウム-塩化物・炭酸水素塩温泉で、源泉の温度は35.7度だ。
館内には「こっと(俺)の湯」と呼ばれる浴槽が有り、ここでは掛け流しの生源泉を楽しむことが出来る。
お湯は若干色が付いているようにも見受けられるが、ほとんど透明に近い。
少しとろみのある湯で、浸かると肌に纏わりつくように馴染んで、上がれば肌がすべすべするようだ。
大浴槽の「さらすべの湯」や、サウナ、寝湯、泡沫湯も有るが、露天風呂と共にこれらは加温循環方式である。
かけ流しにするほど湯量が豊富ではないからであろう。
露天風呂「月待の湯」からは、周りを山々に囲まれた長閑な田園風景の中を流れる鯛ケ淵渓谷を望むことが出来る。
大和路快速
夏祭りが開催されていた島ヶ原温泉を後に、送迎バスで、駅に戻り再び関西線に乗車する。
暫くすると三重県の県境を越え、京都府に入り、最初に停車するのが、月ヶ瀬口駅である。
有名な「月ヶ瀬梅林」の最寄り駅ではあるが、ここから8q余り離れていて、徒歩なら2時間ほど掛かる。
まだ行ったことは無いが、奈良市とか伊賀市からの直行バスの方が、便利が良いらしい。
木津川の流れを見ながら、大河原、更に笠置駅に停車を繰り返す。
笠置は有名な「柳生の里」の最寄り駅だが、ここもアクセスは悪く、徒歩なら1時間ほど掛かるらしい。
こちらの観光も、奈良方面からのバスの方が、利便性が高いようだ。
関西本線は亀山から途中下車が無ければ、1時間20分ほどで終着の加茂に到着する。
ここからは再び電化区間となり、大阪方面に向かい乗り換える事に成る。
駅ホームの列車案内の電光掲示板には、「大和路快速」が何本も表示されている。
今までの本数の少ないローカル線のイメージはこれで完全に払拭され、都市近郊路線に様変わりだ。
「大和路快速」は、加茂や奈良等から大阪環状線に向け、関西本線や和歌山線経由で運転する快速列車の総称だ。
「せんとくん」と奈良の駅
加茂から大阪方面への乗り継ぎはスムーズで、さすがに便利が良く、今までのモタモタ感がまるで嘘のようだ。
平城山あたりの賑やかな町並みを見ながら、奈良には20分ほどで到着する。
特別な目的が有るわけでもないが、二三本列車を遅らせ、何年振りかの奈良駅に降りてみる。
降り立った奈良駅は連続立体化事業により駅舎は新しく成り、ホームも高架に成っていた。
その工事に伴い昭和9年に完成した当時の2代目の駅舎は、取り壊される運命にあったらしい。
この駅舎は、奈良の街並みを考慮して設計されたものだ。
大きな方形の屋根上に仏塔の相輪を乗せた和洋折衷方式の堂々としたもので、歴史的価値の有る名建築で有った。
取り壊しには当然のように反対の声が上がり、保存されることに成った。
結局は曳家と言う方法で20メートル近く移動させ、現在では奈良市の総合観光案内所として利用されている。
古都奈良の玄関にふさわしい建物で有るだけに取り壊されなくて本当に良かったと思う。
奈良の駅では、「せんとくん」が出迎えてくれる。
「せんとくん」は、各地で流行っている、所謂「ゆるキャラ」とは少し趣が違い、それらとは一線を引いている。
平安遷都1300年を記念して誕生した公式キャラクターで、現在では県の観光マスコットに採用されている。
仏様が鹿の角を生やした風貌を、「気味が悪い」「仏様を侮辱している」等と物議を読んだ事は記憶に新しい。
しかしそう言った報道が逆に宣伝効果を高め、すっかり人気者に定着したようだ。
今では兄の「鹿坊」、祖父の「鹿爺」等、その家族まで披露されているらしい。
三条通り
奈良駅から真っ直ぐに東に延びる三条通りは、その行き当たりに鎮座する春日大社への参道である。
旧駅舎の前の広場にはその常夜灯も建っている。
観光都市・奈良を代表する目抜き通りであるだけに、何時訪ねてもその人の多さに驚かされる。
通りには昔からの老舗店に混じり、名の知れた全国チェーンの店や、モダンで比較的新しそうが店舗も混在している。
古都に有っては、伝統に新しさも加わった不思議な匂いのする通りである。
通りで一際混雑を極めているのが、マスコミなどに取り上げられ、より有名になったお餅やさんの店先だ。
店の前では、その売り物の「高速餅つき」のパフォーマンスが繰り広げられている。
取り巻いた人々は、息の合ったつき手とこね手の動作に、思わず感嘆の声を漏らし、見入っている。
黒山の人だかりは、餅が搗き上がると突然乱れ、一つ130円のよもぎ餅を、奪い合うように買い求めていた。
その先にある「奈良県里程元標」の立つ高札場をみて、更に先に進むと左手に広大な興福寺の境内が広がっている。
その向かい反対側には名勝・猿沢の池が静かに水を湛え佇んでいる。
余り時間もなくユックリ見て回ることも出来ないので、猿沢の池前から坂を登り石段を駆け上がる。
目の前に聳える五重塔や南円堂などを急ぎ足で見て廻り、再び三条通りから駅に引き返した。
(この項、一部写真は撮影時期が異なります。)
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