白滝奥の院から町中へ
何回も上り下りを繰り返しながら、2時間もかけてようやく林道・大谷線まで下りてきた。
香園寺白滝奥の院までは、あと数百メートル程の距離である。
林道を下り切ると、右手の林の中に奥の院が有った。
境内を流れる谷川には赤い橋が架けられ、これを渡った200m先には行場である白滝が流れ落ちていると言う。
周辺にはトイレや休憩所なども整備されている。
切り開かれたところにコンクリート造りの平屋の本堂があり、御本尊は不動明王が祀られている。
ここには納経所もあり、15時まで納経を受け付けている。
渓流に沿う山道は春の桜、秋の楓など、四季折々に彩りを添える木も多く、ハイキングコースとなっている。
奥の院から札所までは、まだ2qほど残していて、山を離れそんな下り道を町中へと近づいて行く。
広々とした公園のように整備された大谷池を見てその先で右折、小さな丘を登る。
子安の大師さん・香園寺
丘を登り少し下ると高嶋神社の境内に出る。
神社の横の薄暗い広場のような道を、境内を巻くように進むと木立が切れ、広々とした駐車場が現れる。
そこから延びる参道を進み、低い石段を登ると巨大な建物が見えてくる。
第61番札所・香園寺の大聖堂と呼ばれる建物で、昭和51年に建てられたものだ。
四角い大きな箱のような建物の1階が講堂、両脇の階段を登った2階に本堂と大師堂がある。
大聖堂の左に建つ三階建ての方丈には納経所や売店があり、300名の収容を誇る宿坊にもなっている。
寺は昔から「子安の大師さん」として親しまれ、難産で苦しむ女性や、子を望む夫婦などの篤い信仰を受けている。
そのせいか広い境内には、若いカップルや夫婦連れの参拝客も多く、他の札所との違いを見せている。
「安産」競う町中の寺・宝寿寺
第62番札所・宝寿寺までは1.4キロと近い。
参道を進み旧道から国道11号に出たところで右折、そのまま車の多い道を15分ほど歩く。
すぐ横をJR予讃線が通り、伊予小松駅のホームが見渡せるほど近い国道脇に寺はある。
この寺は「安産の観世音」として知られていて、「安産」は先ほどの香園寺と同じだ。
同じ小松の町内に有る二つのお札所の寺が、「安産」を競っていることに成る。
境内を入ると中央に石畳が伸び、その先の本堂が有るが、立ち入り禁止の札が建てられた工事中で、どうやらこれは旧本堂らしく、その右手に新しい本堂と大師堂が並び立っている。
「安産」を売りにしているが境内に若い夫婦連れどころか、他の参拝客の姿もなく、境内は静まり返っていた。
これと言った特徴の無い、控えめで地味なお寺で、安産祈願では先ほどの香園寺に分がありそうだ。
肉屋が営む宿
寺を出るとすぐ左手奥まったところにJR予讃線の伊予小松の駅が見える。
そこから真っ直ぐに伸びる道を5分ほど歩いた町中に、今日泊まる「ビジネス旅館・小松」が有る。
一泊二食付き5,775円(2012/10)の安宿ながら、食事の評判も良く、遍路間では良く知られた存在だ。
近くのお肉屋が営む宿らしく、玄関を入ると「留守の時はここに電話を」と、肉屋の電話番号が書かれている。
早々と16時前には到着したが、既に先客がいる。
風呂を勧められたが、小さな風呂だから、一人ずつ順番に入ることに成る。
洗濯機・乾燥機も使えるものが1台しかないので、これも順番待ちだ。
夕食までに洗濯を済ませ・・と思っていたが、些か時間を持て余し気味で効率が悪い。
座敷には菅直人前総理の色紙が飾られている。
そんな座敷で、泊り客5人が揃っての夕食はなかなかに賑やかだ。
肉屋の宿の夕食だけに、鍋に使う肉の量はボリューム満点で食べごたえがある。
古希で歩きを始めたと言う兵庫の男性遍路は、このまま高野山まで目指すと言う。
茨城の男性は、明日はここに荷を置いて横峰を打ち、その後ここで連泊するのでゆっくりと出発するそうだ。
マイカーで回っている82歳の大先輩は、まだまだ矍鑠としていて、カーナビが無い軽自動車だが大丈夫と言う。
鍋に大満足し、充分にビールも入ったのか誰もが口が滑らかになって、他愛のない噂話から、持論迄を披瀝し合って遅くまで話に花が咲くのである。
成就石と吉祥天・吉祥寺
ゆっくりと朝食をとり7時前に宿を出る。
次の札所は第63番・吉祥寺である。
JR伊予氷見駅の近く国道沿いにあり、ここからは距離も近く、1.5qほどしかなく20分もあれば着けるだろう。
宿の脇の旧道を歩き、一旦国道に出て暫くしてそこを離れ、角を回り込むと白壁の塀が続く細道が有る。
そこを進み小さな疎水を石橋で渡るとその先に山門が建ち、その前には一対のゾウが置かれている。
門を潜ると正面に堂々とした大屋根の本堂と、その左手に大師堂が建っている。
ここは四国88ケ寺の中では唯一、毘沙門天を本尊とする寺らしい。
面白いのは本堂前の植え込みの中にある成就石だ。
元々石鎚山系の滝つぼに有った石らしく、滝の水に打たれ真ん中に30センチほどの穴が開いている。
本堂前から目を瞑り、金剛杖を下段に構え願い事を念じながら歩きだし、石の穴に金剛杖を通せば願いは成就する。
またその横にある吉祥天の像の下が潜り抜けられるようになっている。
これを潜ると困難を取り除き、富貴をもたらすご利益が有るらしい。
遊び心も満載の札所で、こちらは簡単なので、幾つもの願いを念じながら潜ってみた。
石鎚神社を遥拝し
吉祥寺を出て、国道を横切り旧道に出たところで左折、64番・前神寺を目指す。
国道11号を一つ入った旧道は、住宅街の中を行くが、車も少なくまだ人の動きもなく静かで歩きやすい。
通学時間帯なのか、多くの中学生たちとすれ違い、気持ちのいい挨拶に元気を貰う。
緑一面の田圃の先に、赤い大きな鳥居が見えてきた。
JR予讃線の石鎚山駅前から真っ直ぐに参道が続いている様子がこちらからも窺える。
左に進めばその赤い鳥居の前に出るようだが、その先の分かれ道を右にとる。
暫く行くと右手に石鎚神社がある。
国道を横切った先に赤い一の鳥居があり、その付近は門前町らしくお土産屋さんも並んでいる。
遍路道の前に石造りの二ノ鳥居が建ち、桜並木の参道が奥に延び、それを登るとその先に本殿が有るらしい。
標高1,981mの石鎚山をご神体とする同社は、7〜8世紀頃役の小角によって開かれた日本七霊山の一つだ。
山頂に頂上社、中腹に成就社と遥拝殿を、この場所に本社を持ち、この四社を合わせて石鎚神社と称している。
修験道の総本山・前神寺
門前を過ぎるとすぐに前方の山裾の森の中に、墓地とともに山門が見えてくる。
その奥に、森を背後にした第64番札所・前神寺の伽藍が広がっている。
山門を潜ると右手に広い駐車場がある。
そこを抜けて左折し小さな極楽橋を渡ると少し上り坂になり、その先に広い境内が開けていた。
周りを緑の木立に囲まれて、正面に大師堂、その左一段と下がったところに客殿が建っている。
境内を奥に進み浄土橋を渡ると小さな滝があり、黒光りする不動明王が祀られている。
嘗ては滝打ち修行の行われていた場所である。
誰が始めたものなのか、そこには一円玉が無数に貼り付けられていた。
20段余りの石段を上がると、右手に不動堂、薬師堂が建つ。
その横に更に長い石段が山に向かって伸び、その先には石鉄大権現堂が控えている。
境内の一番奥に、周りに回廊を巡らし大きな鳥が翼を広げたような姿の本殿が有る。
神社のような入母屋造りが印象的な建物である。
石鉄山修験道の総本山・根本道場と言うこのお寺には、修験道に関する貴重な古文書(巻物一巻)も残されていて、市の文化財の指定を受けている。
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