お水の宿 このの
この日の宿は、高野山を望む橋本市街地郊外にある「天然温泉 ゆの里・お水の宿 このの」である。
元々この地には「金水」「銀水」「銅水」と呼ばれる水が湧き出ていて、それを活用した日帰り入浴施設の天然温泉「ゆの里」が作られた。
その後、施設に併設されたのが「お水の宿 このの」で、全18室ほどの小さな宿ながらファミリー向けの和室のほか、ツインやシングルの洋室も備えている。
温泉棟には露天風呂やサウナも有り、宿泊者は無料で利用が出来、日帰り入浴も楽しめる。
棟の三階には食事処やカフェも有り、宿泊客の夕食はここで摂ることになる。
また施設にはフアームが併設されていて、それを加工する手作り工房などもある。
そこで収穫した有機農法で作られた作物の多くは「湯の里」と「このの」での食事に使われると言う。
羅城門から南下して高野山参詣道を歩いて来たが、心配した通り街道筋には泊まれる宿は殆ど立地していなかった。
その為時々出会う鉄道線を使って移動して、これまでは枚方や八尾の駅前のビジネスホテルを利用してきた。
しかしどうせここ橋本で泊まるなら、今夜ぐらいは温泉でゆっくりとしたい。
町中には昔ながらの旅館や、ビジネスホテルなど、何軒かの宿泊施設もあるが、この宿は橋本駅前まで送迎があり、このことが宿を定める決め手となった。
八葉の蓮華
聖地・高野山が転軸山、弁天岳、摩尼山など1000m級の8つの山々に囲まれている事から、これらの峰々を蓮の花の八枚の花弁に例え、「八葉蓮華」と称し、一般的にはそれを「外八葉」と呼だ。
その「外八葉」にそれぞれ設けられたのが、高野七口と言われる高野山への入り口で、それは大門口、不動坂口、黒河口、竜神口、相ノ浦口、大滝口、大峰口である。
「外八葉」に囲まれた山上盆地は、東西6q南北3qで、その神聖な地形の地に空海は真言密教の聖地を開いた。
そこに築かれた大塔を中心とした伽藍が立ち並ぶさまも蓮の八枚の蓮華の形に例えられ、これを「内八葉」と呼んだ。
これが山上の宗教都市・高野山であるが、その名の山は存在しない。
橋本駅から4q余り離れた神野々に有る「ゆの里・お水の宿 このの」からは高野山の山並みを望む事が出来た。
ここに行き来する電車やバスの車窓からも、行く手を塞ぐように低く連なる山々が見えていた。
「あの辺りが高野山・・・」と、教えられた山頂付近に目を凝らせば、気のせいか何やら建造物らしき姿が望まれる。
いよいよ高野山の懐近くまでやって来た。
高野への足
高野山への足としての南海電鉄高野線は、正式には大阪の汐見橋駅から高野町の極楽橋とを結ぶ路線である。
運行上は本線の難波駅から極楽橋間で設定されていて、宗教都市である高野山観光への利便性を考慮したものだ。
この路線には特急の「くうや」が難波から直通するほか、急行や快急列車も何本か設定されていて、橋本と終点の極楽橋間には、観光列車「天空」などの看板列車も投入されている。
高野下駅から極楽橋の間は、この路線のハイライト区間で、駅間の標高で400m以上も登る山岳区間でもある。
50‰と言う急勾配と、曲線半径R=100と言う急カーブの連続で、幾つものトンネルと急坂を重ねながら、ゆっくりゆっくりと登っていく。
車窓からは人家は途絶え、深い谷と豊かな森、その稜線と広がる青い空だけが見えている。
そんな山に中をまるでトロッコ列車のように、車輪の音を軋ませながらかなりゆっくりと進む。
南海高野線の終点、極楽橋駅は3面4線の行き止まり駅で、眼前に山が迫る標高535mに位置している。
ここで電車を降りホームを進むと、そのまま改札を出ることもなく高野山ケーブル(鋼索線)駅に向かう構造だ。
ケーブル駅との乗換の為に作られた駅であることが良く解る。
周辺には駅以外の建物は何もなく、その性かこの日は改札を出る客は誰もいなかった。
駅員に誘導されながら皆一様にケーブル駅を目指し先を急いでいた。
高野山ケーブル
電車のホームから改札を出る事も無く構内に入り右折して、右手に極楽橋の赤い欄干を見ながら、不動谷川に架かる連絡橋を渡ればケーブル駅の階段状のホームが見えてくる。
ホームで待つ車両は珍しい2両連結で随分と大きい。これは電車から乗り継ぐ乗客を一回で捌くためのものらしい。
高野山駅まではその距離800m、高低差330m、最大斜度670‰と言う急こう配を、途中で上り下りの行き違いが有り、あえぐこともなくいとも簡単に5分ほどで登り切る。
高野山観光の入口、ケーブルの高野駅は標高867mに位置し、始発の難波からは64.6qの距離に有る。
開業は昭和5(1960)年で、開業に先立ち作られた木造二階建ての駅舎は国の有形文化財に登録されている。
高野山に有る駅らしく、屋根の上に宝珠を乗せ、宝形造りの屋根を持つ寺院風建築である。
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